翻刻
【右丁】
享保年中 朝鮮(てうせん)の種(たね)渡(わた)り官園にあつて大樹となる五 粒(ゆうの)#1
松(まつ)の如(こと)くにして葉長く二三寸白粉色なり毬 甚(はなはた)大にして長さ五
六寸周り四五寸 鱗甲(りんかう)の間に実あり大さ脂頭(しとう)#2の如く皮(かは)厚(あつ)
くして稍(やゝ)稜(れう)あり仁をとり生にて食すれは香美也地に下(くた)して
能生す
檳榔 あぢまさ《割書:本草|和名》 棕然(きうせん)#3《割書:通|雅》 仁榔(にんろう)《割書:類書|纂要》
無柯子(むかし)《割書:本草和名引兼|名苑山檳榔》 木実(もくしつ)《割書:同|上》 ハウヘル《割書:羅|甸》
アレツカ《割書:荷|蘭》
和産なし暖国の産なり和蘭の書 物印忙(うへいんまん)に生図あり樹は棕櫚(しゆろ)
【左丁】
に似(に)て毛(け)なく枝(ゑた)なし葉又棕櫚の如(こと)く車輪の如くならす芭蕉葉(はせうやう)の如(こと)く長く
して形 火蕉(そてつ)に似(に)て肥大(ひたい)なり葉の本(もと)に房をなして子を結ふこと数十顆形棕
櫚に似て粗(あら)し実(み)の蔕(てい)茄子(なす)に似たり大さ桃の如く生なるは緑色熟すれは
紅黄色なり蘇頌の説に以(もつて)《振り仮名:作_二鶏心状_一|けいゑ【しヵ】んのかたちをなす》と云是なり舶来(はくらい)のもの#4二種あり
長くして尖(とが)るもの真(しん)なり円(まる)くして《振り仮名:扁|ひらき【たヵ】》きものは猪檳榔(ちよひんろう)#5にして大腹子なり
蘭山の説に形 狭(せはくし)て両頭 尖(とが)り榧の実の如きものあり是梭身檳榔な□【りヵ】
檳榔は味ひ渋く微(すこ)しく甘(あま)し大腹子(たいふくし)は甘き味ひなしと云〻中嶋氏 割(わ)り
檳榔は横(よこ)に切て来る花檳榔は未熟(みじゆく)の物は見ゆといへり今官園
にある檳榔は去(さる)戌(いぬ)舶来(はくらい)す高さ四尺許りにして甚(はなはた)寒(かん)を畏(おそ)る蘇
頌の説に生食(なまにてくらへは)其味(そのあしはひ)苦(にかく)渋(しぶし)《振り仮名:得_三扶留藤与_二瓦屋子灰_一|ふるとうをとくばおくしく■ひとをゑて#6#7》同(おなしく)《振り仮名:咀_二|これを》#8
《振り仮名:嚼之_一|くらへは》則(すなはち)《振り仮名:柔滑|じうく■つ#7》甘美(かんひ)也といへり扶留藤(ふるとう)は和名きんまと云もの
なり則 蒟醤(くしやう)也 《振り仮名:瓦屋子灰|くはおくしく■#7#9》は蚶(あかゝい)の殻(から)の灰なり生の檳榔と
あかゝいの灰(はい)とをきんまの葉へつゝみ常(つね)に《振り仮名:果|く■#7》となし客(きやく)に供(きやう)する
をいふ