← 前のページ
ページ 1 / 1
次のページ →
翻刻
【タイトル】富士山頂上八峯内院
并諸国遠見図
富士山は駿河国に在り 其峯雲際に聳
え高サ一万四千百七十尺 其ノ形四面皆同じく
山巓四時雪を戴き 十三州よりこれを
望む皇国第一の高山なり 其の登岳
の路次四所あり 表面を大宮村山口と
云ひ南面を須山口と云ひ 東面を須
走口と云ひ 北面を吉田口と云ふ抑
山頂に鎮座せらるゝ大神を木花
之佐久夜毘賣命と称し大山津見
神の御女也 此の大神は容貌の麗
美なるのみならず 其の神徳亦艶
美なるを以てサクヤの《割書:サクヤは|開光映(サキハヤ)也》神号
あるなり 嘗て天皇迩々 杵命遊幸
して笠沙御崎(カサイサミサキ)に至り 大神に行き逢
ひ玉ひ其鮮姸なるを喜び 将に娶ら
んとなし玉ふに 大神 輙ち諾せずして曰
く 父あり宜く垂問すべしと天皇即ち
使を大山津見神に遣し 固く娶らんと
乞ひ玉ひ立て 皇后と為す後 大神娠め
るあり 産月に臨み天皇宜く 汝娠める
子 吾が子に非ず 必ず国ッ神の子ならん
と 大神聞 且つ怨み無戸室を造り 其
内に入り玉ひ誓て曰く 吾が娠む所若
し天孫《割書:迩々杵命|を称す》の胤に非ざれは当に焦
滅すべし 実に天孫の胤なれば火も損害
する能はじと 則 火を放ち室を焼くに 果
して損害あらず 烟煙中二皇子を生み玉
ふ これ則 大神の安産火難を守護防
禦し給ふの原因とする所なり夫れ皇
別の諸姓は 皆 大神の末流にして 其ノ
子孫は 則 大神の遠孫也 嗟夫(アゝ)諸国の
人民歳々相増し 年々相加し 陸続参拝
する所以のものは 其の余沢の万分の一
を謝せんと欲する所 乎余嘗て聞く群
参中道路旧跡に 鮮明ならず山頂に彷
徨するもの往々これあると 甚遺憾
にたえず為に 聊か知る所を図し以て
登岳の階梯に備ふとしか云
明治十年六月二十日 版権免許
【本文左下、図の左署名】
静岡県平民
著者土屋勝太郎
駿河国富士郡第二大区
二小区厚原村二番地住
静岡県平民
出版人冨士神一郎
駿河国富士郡第二大区
四小区大宮町九十六番地住