翻刻
姜(きやう) 詩(し) 湧(わきて)_レ泉(いつみ)躍(をどる)_レ鯉(こひ)
後(ご)‾漢(かん)の姜(きやう)‾詩(し)は。母(はゝ)につかへて至(しい)‾孝(かう)なり。其(その)_妻(つま)龎(ほう)‾氏(し)も。亦(また)姑(しうとめ)の
意(こゝろ)に順(したが)ひ。逆(さから)ふ事(こと)なし。母(はゝ)。井(ゐ)の水(みづ)をきらひ。江(えの)_水(みづ)をのむ
事(こと)を好(この)めり。姜(きやう)詩(し)が家(いへ)近(ちか)く清(きよき)_江(え)なきにより。龎(ほう)‾氏(し)日(にち)‾々(〳〵)遠(とほ)き
に至(いた)り。清流(きよきながれ)を汲(くみ)かへりけり。或(ある)_日(ひ)風(あめ)‾雨(かぜ)はげしくして。遅(おそ)くか
へりければ。姑(しうとめ)。以(もつ)ての外(ほか)怒(いか)りのゝしりける故(ゆゑ)。姜(きやう)‾詩(し)。其(その)_怒(いか)りを休(やす)
めんがため。妻(つま)を追出(おひいだ)しけり。龎(ほう)‾氏(し)これを恨(うら)みとせず。父(ちゝ)_母(はゝ)の家(いへ)
にもかへらず。隣(りん)‾家(か)の老(らう)‾婆(ば)をたのみて。昼(ちう)‾夜(や)紡(うみ)_績(つむぎ)を事とし。姑(しうとめ)
の好(この)めるものを調(とゝの)へ。老(らう)‾婆(ば)に托(たく)して。度々(たび〳〵)おくりけれは。後(のち)には姑(しうとめ)も
これを知(しり)て。我(わが)短(たん)‾慮(りよ)を悔(くい)て。よびかへしけり。又(また)母(はゝ)生魚(なまいを)の膾(なます)を
このみける故(ゆゑ)。常(つね)に調(てう)してすゝめけり。後(のち)舎(いへ)の側(かたはら)に。清(きよき)_泉(いづみ)湧(わき)て。其(その)_味(あぢはひ)
江(えの)_水(みづ)に異(こと)ならず。此(この)水(みづ)より毎(まい)‾旦(あさ)双鯉出(ふたつのこひいで)て。供(きよう)‾養(ヤウ)の労(らう)を助(たすけ)けると也(なり)