翻刻
黄(くわう)‐庭(てい)‐堅(けん) 滌(あらふ)_二親(みづから)溺(によう)‐器(きを)_一
宋(そう)の黄(くわう)庭(てい)‾堅(けん)字(あざな)は魯(ろ)‾直(ちよく)自(みづか)ら山(さん)‾谷(こく)道(だう)‾人(じん)と号(がう)す。幼(えう)にして警(けい)‾
悟(ご)。博(はく)‾学(がく)にして。文(ふん)‾章(しやう)をよくし。尤(もつとも)詩(し)に長(ちやう)ぜり。東(とう)‾坡(ば)の門に遊(あそ)ぶ
といへども。其(その)_名(な)を等(ひとし)くして。蘇黄(そわう)と称(しよう)せられ。天下(てんか)の文‾宗たり朝(てう)
につかへて官(くわん)高(たか)く。家(いへ)富(と)み。親(おや)に孝(かう)を尽(つく)せり。母(はゝ)病(やまひ)に臥(ふし)給(たま)
ふ時(とき)は。其(その)看(かん)‾病(ひやう)をつとめらるゝ事(こと)。最(もつと)も篤(あつ)く。昼夜(ちうや)かた
はらに侍(はべ)りて。衣(ころも)帯(おび)を解(と)かず。薬(くすり)を煎(せん)じ。食(しよく)をすゝむる
より。大小(だいせう)‾便(べん)をとりて。清(きよ)き水(みづ)を汲(くみ)。其(その)_器(うつは)を滌(あら)ふなどに
至(いた)るまで。みなみづからせられける。これを以て。其(その)孝(かう)‾心(しん)
の程(ほど)をおもふべし。もとよりあまたのめしつかひ有(ある)。富(ふう)
貴(き)の身(み)にして。其(その)_労(らう)を厭(いと)はれざる事。ありがたき志(こゝろざし)ならず
や。学(がく)‾問(もん)して。道(みち)を知(し)りたる人(ひと)ならでは。此(こゝ)に至(いた)りがたし