翻刻
【右丁】
京橋の北方(きた)。南伝馬町
三丁目の十字街(よつつぢ)の角々
四 軒(けん)の商家(あきうと)皆(みな)云蔵 作(つく)
り也。此 故(ゆゑ)に字して。京橋
の四方蔵(しはうくら)と云(いへ)り。此辺(このあたり)
祝融(ひのかみ)の災(わさはい)ありても。此土
蔵火を防(ふせ)くの助と成(なり)に
より。隣(となり)の人の為にもよき
宝(たから)也といひあへるを。祝融(ひのかみ)常(つね)
に嫉(ねた)ましとや思へる。此度(こたび)地(ぢ)
振(しん)の神と心を合せ。棟(むね)を
傾(かたぶ)け瓦(かはら)を落(おと)し壁(かへ)を崩(くづ)し
炎々(えん〳〵)と火(ひ)を延(ひ)き。見る間
に烣烬(くはいしん)となせり。鳴呼(あゝ)惜(をし)
むべし。衢(ちまた)の美観(びくはん)一時に煙
となりぬることを。そも
地震 祝融等(ひのかみたち)の禍日(まがつひ)の
神何ぞ如此(かくのことく)悪行をな
すや。予(われ)此春四方蔵の
家名(いへな)。堤(つゝみ)。山 崎(さき)。太刀伊
【左丁】
勢屋。堺(さかい)屋。の四ツを題(だい)にて
戯(たはぶ)れに
淀(よど)ならぬ堤(つゝみ)も
春のたち
いせや
としの
さかひや
かすむ
山崎
とよめりしも今その家(いへ)を
見てその蔵(くら)なきを歎息(たんそく)す
しかしながらむさし野の広(ひろ)き
御 恵(めぐみ)の露(つゆ)は民艸(たみくさ)のすゑ葉(ば)
までもらさず潤(うるほ)し給へれば
再(ふたゝ)ひ普請(ふしん)成就(しやうしゆ)して繁栄(はんえい)
はじめに百 倍(ばい)すへしと
いふ