翻刻
ことし安政二年卯十月二日 人定(にんてい)にいたり希有(けう)の大地震(おほぢしん)あり倉屋(さうをく)悉(こと〳〵)く損(そこな)はれ
人畜(にんちく)の傷体(けが)許多(あまた)なれば貴賎(きせん)上下 神(たましひ)を失(うしな)ひ恐怖(きようふ)せざるものなししかるに名(な)
だゝる神社仏閣(しんじやふつかく)にいたりては十に九ッ恙(つゝが)なきは奇(あや)しくもいと尊(たふと)し仰(あふ)かざらめや
敬(けい)せざらめや埃(あい)【(壒)】嚢鈔(のうせう)《割書:十四|巻》に地震動の吉凶(きつきよう)を知(し)る法(ほう)を載(のせ)たりこれによるに十月
二日は二十八宿の虚宿(きよしゆく)に値(あへ)り時(とき)は亥剋(ゐのこく)なり仏説(ぶつせつ)に此日此時の地震(ぢしん)を帝釈動(たいしやくゆり)と
称(とな)へて其徴(そのしるし)は天下安穏五穀豊饒天使吉大臣福(てんかあんおんごこくぶねうてんしきつだいじんふく)を受(うけ)万民安穏(はんみんあんをん)也(なり)としるせり火神動(くわじんゆり)
龍神動(りうじんゆり)金翅鳥動(こんしてうゆり)と震動(ぢしん)に四種(ししゆ)ある事 大智度論(たいちどろん)に出て帝釈動(たいしやくゆり)の外(ほか)は皆(みな)凶兆(きようてう)なり大
鯰(なまづ)の所為(わざ)といふも金翅鳥動(こんしてうゆり)の類(たぐひ)なるべし兎(と)にも角(かく)にもいとめてたき世直(よなほ)しにこそ此(この)一小冊(いつせうさつ)を
上代(じやうだい)よりの地震(ぢしん)を古今(ここん)の書籍(しよぢやく)より鈔略取詮(せうりやくしゆせん)して今度(こんど)のにいくらも勝(まさ)る地震 数十度(すじふど)
ありしかど世(よ)の衰弊(すゐへい)するにもあらず弥栄(いやさか)えにさかえて天地(あめつち)と共(とも)に窮(きはま)りなき我(わが)葦原(あしはら)
の中国(なかつくに)の泰平万々歳(たいへいばん〳〵ぜい)たるよしを人々に知らせ参(まゐ)らせんとて 無名氏識