翻刻
【右丁】
またもろこし漢(かん)の武帝(ふてい)はこれも長 生(せい)不 死(し)
のみちをもとめて西(せい)わう母(ほ)といふ仙人をま
ねきしやうしてせんしゅつ【仙術】をまなひ給ふ
わう母すなはち勅におうして禁中(きんちう)にさん
たいし七 菓(くわ)の桃(もゝ)をたてまつり丹砂(たんしや)雲母(うんほ)玉(ぎよく)
璞(はく)をねり紫芝黄精(ししわうせい)の仙薬をとゝにへつゐ
にほうらいのふしのくすりをたてまつりき
それより唐(たう)の世にうつりて玄宗皇帝(けんそうくはうてい)の
御とき楊貴妃(やうきひ)の魄(たま)のゆくゑをたつねまほし
くおほしめし方士(はうじ)【注①】におほせてもとめ給ふに
【注① 「ほうじ。ほうしともいう。方術、すなわち神仙の術を行う人。道士】
【左丁】
方士すなはち勅銘をうけたまはり十 洲(しう)三
島の間をあまねくたつねめくるところに
かのほうらいの山のうち太真宮(たいしんきう)【注②】にてたつね
あふ七月七日 星合(ほしあひ)の夜のひよくれんり【比翼連理=男女の間の睦まじいこと】のか
たらひねんころなる私語(さゝめこと)おはしけりと云
事は此時にそしりにけるやうきひと申す
もほうらい宮(きう)の神仙(しんせん)にてかりに人けんに
あらはれて玄宗(けんそう)くわうていにちかつき
花清宮(くはせききう)の御遊(きよゆう)にも仙家(せんか)のきよくをまひ
たまふけいしやう羽衣(うい)のきよくとは是
【注② 「太真」は楊貴妃の号】