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コレクション: STAGE5

安政見聞録 上 - 翻刻

安政見聞録 上 - ページ 12

ページ: 12

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を背(そびら)に負(お)ひ。たち出(いで)んとしたるをり。憐(あはれ)むべし。その傍(かたはら)の柱|摧(くじ)けて二階(にかい)の 梁(うつはり)。そのうへに落(おち)かゝり。二人諸共(ふたりもろとも)に打倒(うちたほ)され。起(おき)あがらんとするも甲斐(かひ)なく。 圧(おし)にうたれて即時(そくじ)に死(し)せり。当下婿(そのときむこ)は用(よう)の事(こと)あり。他所(たしよ)にゆきて在(あ)り けるが。地震(ぢしん)に駭(おどろ)き止(や)むを俟(まち)て。ひた走(はし)りに馳帰(はせかへ)り。家内(かない)の者(もの)の心許(こゝろもと) なく。その傍(ほとり)を索(たづ)ぬるに。召仕(めしつか)ひの男女等(なんによら)は。大(おほ)かた外面(そとも)にありぬれど。母(はゝ)と 妻(つま)のあらざるに。駭(おどろ)き見ればその家居(いえゐ)は。崩(くづ)れ傾(かたふ)き家根(やね)落(おち)て。内(うち)へ入るべ きやうもなし。偖(さて)こそ二人(ふたり)はこの裡(うち)に。呻吟(さまよひ)あるものならめ。と声(こゑ)をあげて 名(な)を呼(よ)べど。更(さら)に對(こた)へもあらざれば。いよゝ心(こゝろ)も心ならず。逃出(にげいで)たる下奴(こもの)を呼(よ)び よせ。力(ちから)を竭(つく)して覆(おほ)ひたる。家根を穿(うが)ち倒(たほ)れたる。柱棟(はしらむなぎ)を漸〻(やうやく)に。取除(とりのけ)て これを見るに。妻の背(そびら)に母を負ひ。そのまゝ|其処(そこ)に俯(うつぶ)して。二人ともうち 匾(ひら)められ。七竅(しちけう)より血滴(ちしたゝ)り。目(め)もあてられぬ景勢(ありさま)に。やゝ悲嘆(ひたん)にくれけるが。【コマ十四の左側に続く】  【乱丁のため、これよりコマ二十四の右側から続く本文】  多(おほ)くは老耄(らうもう)の讒語(たはこと)と。侮(あなど)りて動(うご)かぬあり。殊(こと)に彼弱官等(かのわかうどら)は。老媼(おうな)が  狂(くる)ひ躁(さわ)ぐを見て。偖(さて)こそとて指(ゆび)さし笑(わら)ふ。かくてその日未刻過(ひやつすぐ)るころ。  暴(にはか)に大地震動(たいちしんどう)して。残(のこ)りなく海(うみ)に没(ぼつ)し。僅(わづか)にこの岳(をか)を遺(のこ)せり。こゝ  に於(おい)て山上(さんじやう)へ。逃登(にげのぼ)りたる者(もの)の外(ほか)は。みな悉(こと〴〵)く死(しゝ)にけりとぞ。これ其(その)  古墳(こふん)へ殷(のり)血を著(つけ)しは。弱官(わかうど)の所為(わざ)なれど。その時(とき)にしてそのことある  こそ。既(すで)に天変(てんへん)の兆(きざし)ならめ。匹夫匹婦(ひつふひつふ)の言(こと)といへども。時(とき)として験(しるし)あり。  その卑(いやし)きをもて侮(あなど)るは。道(みち)しらぬ人といはんか    〇士人自身飢民(しじんみづからきみん)を救(すく)ふ条(くだり) 或人(あるひと)の物語(ものがたり)に。一人の武士(ものゝふ)あり。元来薄禄(もとよりはくろく)にして貧(まづ)しといへども。常(つね)に慈 悲(ひ)の志(こゝろざし)あり。然(しか)るにこの夜大震(よたいしん)して。その家半傾(いへなかはかたふ)きけれど。崩(くづ)るゝに 至(いた)らねば。まづ安堵(あんど)の思ひをなし。近隣(きんりん)はいふにおよばず。親(した)しき人(ひと)の安(あん)【コマ十四の右側に本文続く】