翻刻
西山(せいざん) 常建(じやうけん)
一身(いつしん)為(なる)_二軽舟(けいしうと)_一。落日西山際(らくじつせいざんのあいだ)。常(つねに)隨(したがひ)_二去帆影(きよはんのかげに)_一。遠(とをく)接(せつす)_二長天勢(ちやうてんのいきほひに)_一。
物象(ぶつしやう)帰(きし)_二余清(よせいに)_一。林巒(りんらん)分(わかつ)_二夕麗(せきれいを)_一。亭亭碧流暗(てい〳〵としてへきりうくらく)。日入孤霞継(ひいつてこかつぐ)。
洲渚遠陰映(しうしよとをくいんえい)。湖雲尚明霽(こうんなをめいせい)。林昏楚色来(はやしくらうしてそしよくきたり)。岸遠荊門閉(きしとをふしてけいもんとづ)。
至(いたつて)_レ夜(よに)転清迥(うたゝせいけい)。蕭蕭北風厲(せう〳〵としてほくふうはげし)。沙辺雁鷺泊(しやへんがんろはくし)。宿処蒹葭蔽(しゆくしよけんかおほふ)。
円月(えんげつ)逗(とうし)_二前浦(ぜんほに)_一。孤琴又揺曳(こきんまたえうえいす)。冷然夜遂深(れいぜんとしてよつゐにふかし)。白露(はくろ)沾(うるほす)_二 人袂(じんべいを)_一。
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《割書:軽(かろ)き舟(ふね)に乗(のつ)て行(ゆけ)ば惣身(そうみ)に羽(はね)がはへ飛(とぶ)やうに思(おも)はるゝ西山(せいざん)に日(ひ)も落(おち)けりもは|や日(ひ)くれそうな我身(わがみ)より先(さき)へ舟(ふね)がゆくやうすを云 先(さき)へ行(ゆく)舟(ふね)を目当(めあて)にそれに随(したがつ)て|行(ゆく)ゆゑ早(はや)い向(むかふ)を見わたせば水涯(みづきし)まで余(よ)ほど遠(とを)けれども此方から向(むかふ)の西山(せいざん)へ飛(とび)つく|ばかりに思はるゝ物象(ぶつしやう)とは山(やま)にもあり川(かは)にもあり何(なに)もかもこめて日(ひ)のある中(うち)は日(ひ)のさゝ|ぬ所もありてどこがどこやらさつぱりみへぬものじや日が入切(いりきつ)てからさつはりとみゆる|こゝはひくみゆゑ日(ひ)がかげる林(りん)らんは高(たか)く空(そら)にちかいゆゑひくい所は日(ひ)が入(いり)たれども林(りん)|らんはまだ入日(いりひ)のかげがきら〳〵とみゆる亭々(てい〳〵)と高(たか)く水(みづ)の流(なが)るゝも日影(ひかげ)のあるうち|はたゞはるかに向(むかふ)ひきくみゆるものじやが日影(ひかげ)がなくなつては向(むか)ふがしだいに高(たか)くくらく |みゆる又 日(ひ)が入て空(そら)をみれば孤霞(こか)とて夕陽(せきやう)の影(かげ)一 筋(すぢ)つゞひてみゆる又 向(むか)ふの|渚(なぎさ)の方(かた)をみればどふやらあそこがきりぎしそうなとさつはりとみへねども陰映(ゐんえい)|とをぐらくみゆる舟(ふね)よりはるかに見る景(けい)を云 湖(みづうみ)の空(そら)なども日(ひ)が入 切(きつ)てはさつ|はりとみゆるまだ暮(くれ)きらぬゆゑ尚(なを)の字(じ)あり楚辞(そじ)などに楚国(そこく)の風色(ふうしよく)をみれば|物(もの)あはれにものさびしくみゆるを直(すぐ)に楚色(そしよく)と云てあるこゝも其心にて暮方(くれがた)の|風色(ふうしよく)うすくらく物あはれなるていを云もはや段々(たん〴〵)暮方(くれかた)にて荊門(けいもん)の岸(きし)もみへぬ|やうになるを閉(とづ)と云 夜(よ)になつては清逈(せいけい)とすみわたつて蕭々(せう〳〵)と物(もの)さびしげに北風(きたかぜ)|などがはげしくふく夜(よる)ゆゑ沙辺(しやへん)に舟(ふね)をつなぎて居(ゐ)ればよしあししげり其|間(あいだ)に鳥(とり)などか泊(とまつ)てある東方(とうばう)から月(つき)が出ておもしろい海上(かいしやう)から月(つき)の出るときは|まん丸(まる)く二三尺も上(あが)りてからは水中(すゐちう)に影(かげ)がうつろふて滞留(たいりう)して居(ゐ)るやうにみゆ|るゆゑ逗(とう)すと云 月(つき)が出ておもしろさに琴(こと)など取出(とりいだ)してたのしむ興(きよう)に乗(じよう)じ|て寝(ね)ずに居(ゐ)るていじや其うち夜(よ)がいたくふけたりとおどろきさて〳〵あまり|おもしろく夜(よ)のふくるもしらなんだといふ也 此詩(このし)は西山(せいざん)とある東(ひがし)より舟(ふね)にのり|其日の中に西方(さいはう)の山(やま)へ行(ゆき)つき日(ひ)くれより夜(よ)ふくるまでのていを順(じゆん)にのべたる也》