翻刻
南礀中題(なんかんちうだい) 柳宗元(りうそうげん)
秋気(しうき)集(あつまる)_二南澗(なんかんに)_一。独遊亭午時(どくゆうすていごのとき)。廻風一蕭(くわいふういつにせう)
瑟(しつ)。林景久参差(りんけいひさしくしんし)。始至(はじめていたつて)若(ごとし)_レ有(あるが)_レ得(うること)。稍深遂(やゝふかうしてついに)
忘(わする)_レ疲(つかれを)。覊禽(ききん)響(ひゞき)_二幽居(ゆうきよに)_一。寒藻(かんさう)舞(まふ)_二淪漪(りんいに)_一。去(さつて)_レ国(くにを)
魂已遠(たましひすでにとをく)。懐(おもふて)_レ 人(ひとを)涙空垂(なんだむなしくたる)。孤生(こせい)易(やすし)_レ為(なし)_レ感(かんを)。失路(しつろ)
少(すくなし)_レ所(ところ)_レ宜(よろしき)。索莫竟何事(さくばくついになにことぞ)。徘徊祇自知(はいくわいしてみづからしる)。誰(たれか)
為(たる)_二後来者(こうらいのもの)_一。当(まさに)【左ルビ「べし」】_下与(と)_二此心(このこゝロ)_一期(きす)_上。【印「天真」】
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《割書:柳宗元(りうそうげん)左遷(させん)せられ居(ゐ)た時(とき)なんかんのあたりにあそび心(こゝろ)をなぐさめんとおもひ|其辺(そのへん)の風景(ふうけい)をのべた詩(し)じや草木(くさき)も秋(あき)のけしき別(べつ)して物(もの)さびしい人もない|所へ昼中(ひるなか)ひとりゆけば左遷(させん)の身(み)に何(なに)を見てもものうく思(おも)はるゝつむぢ風(かぜ)が|草木(くさき)にあたつてものさびしく風つよく木(き)の枝(えだ)のびたりたはみたり長短(ちやうたん)参(かた)|差(たがひ)になるつれもなけれ共 南(なん)かんをあちらこちらあるく内にふと心をなぐさむ|ることを得(う)るこゝち夫(それ)よりつかれをも忘(わす)るゝやうな覊(き)は飢(き)と通(つう)ずれはひだる|そうに幽谷(ゆうこく)にひゞき鳥(とり)のなく声(こゑ)がするころしも秋(あき)さむき比のうきくさ|淪漪(さゞなみ)に舞(ま)ふてゐる故郷(ふるさと)を思(おも)ひ出(いだ)し遠(とを)くなつて夢(ゆめ)にも行(ゆく)ことがならぬ|思ふ人を跡(あと)へ残(のこ)し来(き)たれば逢度(あひたし)と思へ共 文(ふみ)さへやる便(たより)がないたゞなきくらして|ゐる我(われ)ひとり此処に在(あつ)て独立(ひとりだち)ゆゑ力(ちから)にも頼(たのみ)にもなる人はなく何(なに)をみても感(かん)を|なしやすいはじめは立身(りつしん)もしやうと思ひしが万事(ばんじ)左(ひだり)まへに成(なり)ては何(なに)事も心(こゝろ)に叶(かなふ)ことは|ないかゝる身(み)になつては此上(このうへ)は何(なに)となるであらうたゞ徘徊(はいくわい)しうろたへゐてうさつらさ|を誰(たれ)知(し)つてくれる人なく自(みづか)ら知(し)るのみじや若(もう)【もしヵ】後来(こうらい)の衆(しゆ)が此(この)物(もの)さびしきけしきを|見てはいにしへ柳宗元(りうそうげん)左遷(させん)して此処へ来たなればさぞ感慨(かんがい)したであらうと|今(いま)の心(こゝろ)を思(おも)ひやつてくれる人があらうか大方(おほかた)あるまい》