翻刻
世俗(せぞく)よく云(い)へる。当(あた)るも八卦(はつけ)当らぬも
八卦(はつけ)とは宜(むべ)なり。然(され)ど易(えき)の本躰(ほんたい)は。筮竹(ぜいちく)
を把(とり)心を澄(すま)し。天地(てんち)の神に疑惑(ぎわく)を告(つ)げ。決(けつ)
断を乞(こ)ひ卦(くわ)を求(もと)め。陰陽(いんやう)両義を追重(つひかさね)て
而(しか)して後(のち)に卦名(くわめい)を知(し)る。是時(このとき)に善悪(ぜんあく)を
神の示し給ふるかを。売卜者(ばいぼくしや)の汚たる。心
よりして判談(はんだん)する故。的察(てきさつ)の真理(しんり)に至らば。
恐(おそ)るへき事ならずや。此度の有斯(かゝる)大変(たいへん)も
神託(しんたく)既(すで)に無にあらず。真偽(しんぎ)は知らねと去月(きょげつ)
毎月。彼の神田(かんだ)大明神(たいみうしん)に。仕令(つかまつらす)神官(かんぬし)の。夢の
内に彼(かの)神(かみ)まし〳〵。我(われ)出雲(いづも)へと出立せしかど。氏
子の者に怪我(けが)あらんを。気遣(きづか)しく思ふが故(ゆえ)に。立
戻(もど)りて汝(なんぢ)に告(つぐ)と。託(たく)し給ふは夢(ゆめ)なれと。何事
歟出来んと考(かんが)ふれとの思案(しあん)に能(あた)はす。火災(くわさい)
を知(し)らせ玉ふにや。と甲乙(たれかれ)懇意(こんい)に告(つぐ)るといへども。
怪敷(あやしき)ことを|云触(いひふら)し。公事(おほやけ)の咎(とがめ)もあらんと。口(くち)を噤(つぐ)
んで居(ゐ)たりしとなん。是(これ)神(かみ)も天気(てんき)をして。顕(あらは)然に
洩(もら)すはからんと。人(ひと)また是を推(すゐ)すもかたし。
唯(たゞ)無事(ぶじ)なるは神仏(しんぶつ)の。加護(かご)と歓(よろこ)び給へかし。
と此|双子(いつさい)を見る人に。信心(しん〴〵)を示(しめ)すになむ