翻刻
つきぬる/声(こゑ)の心地よく聞へひし〳〵としめあふけわいしけるは女房も男
もたがいに/気(き)をやる/最中(さいちう)よとさつしいるに/常(つね)ならぬ/息(いき)ざしにて男の
/云(いひ)けるはこれほどたのしみに思ひあひぬる中をよそに見て/暮(くら)さん事の
/心憂(こゝろよ)さよ/金子(きんす)百五十両は/某(それがし)人に/借(かし)おきぬ/親父(おやぢ)が/苦労(くらう)にもならぬ
事その/金(かね)を/出(だ)して/隙(ひま)もらふ事はなるまいかトいふ/声(こゑ)しける/扨(さて)もにくき
事かなふすま/蹴(け)はなし/二人(ふたり)ともかさねて/置(おい)て/切伏(きりふせ)ふかと思ひしが/待(まて)
しばし/町人(てうにん)の/手柄(てがら)だて/詮(せん)なき事それよりはすべきやうあらんトとくと
/思案(しあん)してやかて/門(かど)の口へ/忍(しの)びより表より帰りたる/風情(ふせい)して/内(うち)より戸を
/打(たゝ)き/爰明(こゝあけ)よと声かくれば/相図(あいづ)の/養子(やうし)心得たりとて/戸(と)を明/何(なに)とて
/只今(たゞいま)ごろ/帰(かへ)り給ふといへば用ありて/帰(かへ)りたり/是(これ)は/店(みせ)も/奧(おく)も/行燈(あんどう)が/消(きへ)て
ある/女房(にようぼ)どもはや/火(ひ)をともせといへば女房は/肝(きも)をつぶしあんどうはとぼ