翻刻
おもひ〳〵に|御手当(おてあて)あれど。|時(とき)がときとて空(そら)かき
くもり。雪(ゆき)は烈(はげ)しく寒(さむさ)は増(まさ)る外(そと)にねられず涙(なみだ)の
中(うち)に。|一家(いつけ)|親類(しんるい)寄(より)あつまつて。|大工(だいく)いらずの
堀(ほつ)たて小屋(ごや)に。綴(つゞれ)かぶりて凌(しの)ぐとすれど|吹雪(ふぶき)
たち込(こ)み目(め)もあてられず。ことに|今年(ことし)は|大悪(だいあく)
作(さく)で。米(こめ)は|高直(かうぢき)|諸色(しょしき)は高(たか)く。夫(それ)に|前代未聞(ぜんだいみもん)
の|変事(へんじ)。これをつら〳〵|考(かんが)へ見るに。|士農工商(しのうこうせう)
|儒仏(じゅぶつ)も神(しん)も。道(みち)を忘(わす)れて|利欲(りよく)に迷(まよ)ひ
|上下(じやうげ)分(わか)たず奢(をごり)を極(きは)め。|武夫(ぶけ)は武(ぶ)よりも
|算盤(そろばん)かまへ。|諸色(しょしき)|運上(うんじょう)とつ〳〵|工夫(くふう)。人(ひと)を思(おも)
はず己(おのれ)を愛(あい)し。昔(むかし)|不作(ふさく)の|時節(じせつ)をきくに。
|葛根(くすね)堀(ほり)たり|磯菜(いそな)をつみて。己(おのれ)らが命(いのち)をつな
ぎ。|収納(じゆなふ)|作得(さくとく)上(あげ)しと聞(き)くに。今(いま)の|百姓(ひやくせう)は夫(それ)
とはちがひ。少し|不作(ふさく)の|年柄(としがら)にても。検見(けんみ)