翻刻
【右丁】
五味子(こみし)
享保(けうほ)年中 朝鮮(てうせん)より種(たね)渡(わた)り今世に伝(つた)へ栽(うゆ)春 旧蔓(ふるつる)より葉(は)を生(せう)す梅葉に似(に)て長(なか)く互生(ごせい)す四月
葉間(はのあいた)に穂(ほ)を生(せう)して白花を開く形南五味子《割書:びなん|かつら》に似て八九 弁(へん)実(み)は長き穂(ほ)をなして一二寸 下(げ)
垂(すい)し円(まるき)実(み)を結(むす)ぶ形(かたち)落葵(らくき)《割書:つるむ|らさき》に似て熟(じゆく)すれは黒色(くろいろ)味(あしは)ひ酸(す)く潤(うるほ)ひあり又 花実(はなみ)の房(ふさ)短(みしか)く
小(ちいさき)蔓(つる)にても能(よく)実(み)を結(むす)ふ物(もの)あり是(これ)弘景説(こうけいせつ)に《振り仮名:出_二高麗_一|こうらいよりいつる》と云 時珍説(じちんせつ)に北産者(ほくさんのもの)色(いろ)黒(くろし)と云これなり
備急本草(ひきうほんさう)の越州五味子(ゑつしうこみし)なり
一種 まつふさ《割書:葉を摘(つみ)て嗅(かめ)は松葉の|気あり故(ゆへ)に名(な)つく》 わたふじ《割書:豆|州》
やはらつる《割書:此(この)蔓(つる)肥大(ひたい)なるものも軟(やはらか)|にして物(もの)を絡(まと)ふ故(ゆへ)に名(な)つく》
武州八王子山中 常陸(ひたち)筑波(つくは)諸国(しよこく)山中にあり葉(は)は南五味子より円くして尖(とか)り杏(あんす)の葉(は)の如く鋸(かゝり)
歯なく光沢(つや)あり朝鮮種(てうせんたね)と同しく冬 葉(は)枯 夏月(なつ)葉(は)の間に七八 弁(へん)の淡黄花(うすきいろのはな)を開(ひら)き
【左丁】
下垂(かすい)す形(かたち)荷花(かくは)《割書:はすの|はな》に似(に)て小なり後黒子を結(むす)ふ微(すこし)潤(うるほひ)ありて朝鮮種(てうせんたね)に亜(つ〱)く亦(また)北産(ほくさん)の一種なり
一種 さねかつら びなんかつら《割書:江|戸》
とろゝかから【注】《割書:雲|州》
人家 藩籬(まかき)に栽(うゆ)藤蔓(つる)まつふさに似たり葉は冬青(とうせい)《割書:もち|のき》に似て柔(やはらか)く背(うら)紫色(むらさきいろ)光沢(つや)ありて
冬 凋(すぼ)ます夏月(なつ)葉間に淡黄色(うすきいろ)の花(はな)を開(ひら)く形(かたち)蓮花(れんけ)に似て小なり実は数顆(すくは)あつまりて毬(まり)
の如く熟(しゆく)すれは紅色(こうしよく)乾(かはけ)は枯燥(こそう)して潤(うるほひ)なく苦味(にかみ)ありて下品なり時珍説(しちんせつ)に南産者(なんさんのもの)色(いろ)紅(こう)と
云 是(これ)なり薬店(やくてん)にて和産の五味子(こみし)と称(せう)するは是(これ)なり
【版心の中央部に記載あり】
まつふさ
【注 「さねかずら」の別名に「とろろかずら」あり(一)。「かから」は「さるとりいばら」の別名にあり(二)。(一)『日本国語大辞典 精選版』(小学館)「さねかずら」の項参照。 (二)『広辞苑(第七版)』(岩波書店)「さるとりいばら」の項参照。】