東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: 学校教材発掘プロジェクト 1

日本山海名産図会 - 翻刻

日本山海名産図会 - ページ 49

ページ: 49

翻刻

【右丁】  に長明(ちやうめい)無名抄(むみやうしやう)を引(ひき)て井堤(いて)の蛙(かわづ)是(これ)なり晩(くれ)に鳴(な)きて常(つね)のかわずに変(かわ)れり  色(いろ)黒(くろ)き様(やう)にて大(おほ)きにもあらず□□#1ふて山蛤(さんかう)に充(あて)たるはおぼつかなし     ○蘡薁虫(ゑひつるのむし)《割書:木(き)の一名/野葡萄(のぶとう)|》  山城国(やましろのくに)《振り仮名:鷹が峯|たか  みね》に出(いづ)る物(もの)上品(じやうひん)とす蔓(つる)葉(は)花(はな)実(み)ともに葡萄(ぶどう)に異(こと)なることなし  詩経(しきやう)六月/薁(いく)を食(くらふ)とは是(これ)なり春月/萌芽(め)を出(いだ)して三月/黄白(わうはく)の小花穂(せうくわほ)をな  す七八月/実(み)を結(むす)ぶ小(せう)にして円(まろ)く色(いろ)薄紫(うすむらさき)其茎(そのくき)吹(ふい)て気(き)出(い)づ汁(しる)は通草(あけひ)の  ごとし蔓(つる)に往々(ところ〳〵)盈(ふく)れたる所(ところ)ありて真菰(まこも)の根(ね)に似(に)たり其中(そのなか)に白(しろ)き虫(むし)あり  是(これ)小児(せうに)の疳(かん)を治(ぢ)する薬(くすり)なりとて枝(ゑだ)とも切(きり)て市(いち)に售(う)る然(しか)るに此(この)茎中(けいちう)に  虫(むし)あること和漢(わかん)の書(しよ)に於(おゐ)て見(み)ることなし柳(やなき)の虫(むし)常山(くさぎ)のむしもともに疳(かん)  薬(くすり)とはすれども尚(なを)勝(まさ)れりとは云(い)へり南都(なんと)に真(しん)の葡萄(ふとう)なし此(この)実(み)を採(とり)て核(たね)を  去(さ)り煎熬(せんかう|いり)して膏(あぶら)のごとし食用(しよくよう)とす又/葉(は)の脊(せ)に毛(け)あり乾(ほ)してよく揉(もめ)ば  艾綿(もぐさ)のごとし是(これ)にて附贅(いぼ)を治(ぢ)す故(ゆへ)にイホおとしの名あり中華(から)には酒(さけ)に 【左丁】  醸(かも)し葡萄(ぶどう)の美酒(びしゆ)欝金香(うつきんこう)と唐詩(とうし)に見(み)へたるは是(これ)なり   《割書:和名(わみやう)ヱヒツルとは久(ひさ)しく誤(あやま)り来(きた)れりヱヒツルは葡萄(ぶどう)のことにて蘡薁(ゑびつる) |イヌヱヒ又ブトウといへりされとも古しへより混していひしなるへし》 田臘品(かりのしな)    ○鷹(たか)  甲斐(かい)山中(やまなか) 日向(ひむか) 丹後(たんこ) 伊予(いよ)等(とう)に捕(と)るもの皆(みな)小鷹(こたか)にして大鷹(おほたか)は 奧(おう)  州(しう)黒川(くろかわ) 上黒川(かみくろかは) 大沢(おほさは) 富沢(とみさわ) 油田(あぶらた) 年遣(とつかい) 大爪(おほつめ) 矢俣(やまた)等(とう)にて  捕(とる)なりしのぶ郡(こほり)にて捕(とる)者(もの)凡(すべ)てしのぶ鷹(たか)とはいへり白鷹(おほたか)は朝鮮(てうせん)より来(きた)りて  鶴(つる)雁(かん)を撃(う)つ者(もの)是(これ)なり鷹(たか)を養(か)ふ事(こと)は朝鮮(てうせん)を原(もと)として鷹鶻方(たかこつはう)と云(いふ)書(しよ)  あり故(ゆへ)に本朝(ほんてう)仁徳天皇(にんとくてんわう)の御宇(きよう)依網屯倉(よさみみやけ)の阿珥古(あひこ)鷹(たか)を献(けん)せしに其名(そのな)さへ知(しり)  給(たま)はざりけるを百済(はくさい)の皇子(わうし)酒君(さけのきみ)是は朝鮮(てうせん)にて倶知(くち)と云(いふ)鳥(とり)なりとて韋(おしかは)緡/小鈴(こすゞ)  を着(つけ)て得馴(ならしえ)て百舌野(もすの)遊猟(ゆうれう)□□□( おゝ  )#2《振り仮名:雉子|き□#3》を捕(と)る故(ゆへ)に時人(ときひと)其(その)養鷹(たかかひ)せし処(ところ)を  号(なつけ)て鷹甘邑(たかいのやう)と云(いふ)て今(いま)の住吉郡(すみよしこほり)鷹合村(たかあいむら)是(これ)なりされば我国(わかくに)に養(やしな)ひ始(はじめ)し

現代語訳

【右丁】 長明の『無名抄』を引用して、井堤の蛙がこれである。夕暮れに鳴いて普通のかわずとは異なっている。 色は黒っぽく、それほど大きくもない。山椒魚に当てはめるのは疑わしい。 ○蘡薁虫(えびつるの虫)《木瓜の一名/野葡萄》 山城国の鷹が峯に産するものを上品とする。蔓・葉・花・実ともに葡萄と変わることがない。 『詩経』六月篇の「薁を食らう」とはこれのことである。春に新芽を出して三月に黄白色の小さな花穂をつける。七八月に実を結ぶ。小さくて丸く、色は薄紫色。その茎を吹くと気が出て、汁は通草のようである。蔓にところどころ膨らんだ所があって真菰の根に似ている。その中に白い虫がいる。 これは小児の疳を治す薬だといって、枝とともに切って市で売っている。しかし、この茎の中に虫がいることは和漢の書物で見ることがない。柳の虫、常山の虫もともに疳薬とするが、これの方がさらに勝っているという。奈良には真の葡萄がない。この実を採って種を除き、煎り詰めて油のようにして食用とする。また葉の裏に毛があり、乾燥してよく揉めば艾のようになる。これでいぼを治す。故に「イボおとし」の名がある。中国では酒に 【左丁】 醸して葡萄の美酒とし、「欝金香」と唐詩に見えるのはこれである。 《和名のエビツルは長く誤って来た。エビツルは葡萄のことで、蘡薁はイヌエビまたはブドウという。されども古くから混同して言ってきたのだろう》 狩猟の獲物 ○鷹 甲斐山中・日向・丹後・伊予等で捕るものは皆小鷹であって、大鷹は奥州の黒川・上黒川・大沢・富沢・油田・年遣・大爪・矢俣等で捕るのである。信夫郡で捕る者を総じて信夫鷹という。白鷹は朝鮮から来て鶴・雁を撃つものである。鷹を養うことは朝鮮を起源として『鷹鶻方』という書がある。故に本朝では仁徳天皇の御代に依網屯倉の阿珥古が鷹を献上したが、その名さえご存じなかったところ、百済の皇子酒君が「これは朝鮮で倶知という鳥です」といって、革紐・小鈴をつけて慣らして百舌野で遊猟し、雉子を捕った。故に時の人がその養鷹をした処を号して鷹甘邑といい、今の住吉郡鷹合村がこれである。されば我が国に養い始めた

英語訳

[Right page] Quoting Chomei's "Mumyosho," these are the well frogs. They croak at dusk and are different from ordinary frogs. Their color is blackish and they are not particularly large. It is doubtful to equate them with salamanders. ○Ebi-tsuru-no-mushi (Wild grape insect) <<Also called boke tree / wild grape>> Those from Takagamine in Yamashiro Province are considered of the highest quality. The vines, leaves, flowers, and fruit are no different from grapes. The phrase "eating iku" in the June chapter of the Book of Songs refers to this. It sprouts in spring and produces small yellowish-white flower clusters in the third month. It bears fruit in the seventh and eighth months. The fruit is small and round, pale purple in color. When you blow on its stem, air comes out, and the sap is like that of akebi. The vine has swollen places here and there that resemble the roots of wild rice. Inside these are white insects. These are said to cure childhood malnutrition and are sold at markets, cut together with branches. However, the presence of insects in these stems is not mentioned in Japanese or Chinese texts. Although insects from willows and clerodendron are also used as medicine for childhood ailments, this one is said to be superior. There are no true grapes in Nara. They harvest this fruit, remove the seeds, boil it down until it becomes like oil, and use it as food. Also, the undersides of the leaves have hair that, when dried and well rubbed, becomes like moxa. This is used to treat warts, hence the name "wart remover." In China, they ferment it into wine [Left page] to make fine grape wine, which appears in Tang poetry as "turmeric fragrance." <<The Japanese name "ebi-tsuru" has long been mistaken. Ebi-tsuru refers to grapes, while ebi-tsuru means wild grape or mountain grape. However, they have probably been confused since ancient times.>> Hunting game ○Hawks Those caught in the mountains of Kai, Hyuga, Tango, Iyo, etc. are all small hawks, while large hawks are caught in Kurokawa, Kamikurokawa, Osawa, Tomisawa, Aburata, Totsukai, Otsume, Yamata, etc. in Oshu Province. Those caught in Shinobu District are generally called Shinobu hawks. White hawks come from Korea and are used to hunt cranes and wild geese. Hawk keeping originated in Korea, and there is a book called "Takakotsubo." Therefore, in our country, during the reign of Emperor Nintoku, Ahiko of Yosami Miyake presented a hawk, but even its name was unknown. Prince Sake of Baekje said, "This is a bird called kuchi in Korea," and attached leather straps and small bells, trained it, hunted at Mozu-no, and caught pheasants. Therefore, people of that time called the place where hawk keeping was practiced Takai-no-yu, which is present-day Takaai Village in Sumiyoshi District. Thus, this was the beginning of hawk keeping in our country.