翻刻
悉(こと〳〵く)迶(のか)れ出て。本城(ほんしやう)赤阪(あかさか)にそつぼみける。京軍 欺(かく)とは夢(ゆめ)にもしらず。翌日(よくしづ)
未明(みめい)より。四方(しほう)を囲(かこ)み。今日(けふ)は是非(せひ)乗落(のりをと)さんと。喊(とき)を告(つくつ)て攻(せめ)寄(よす)るに。城中(しやうちう)は
静(しつま)り返(かへつ)て音(おと)もせず。扨(さて)は又いかなる謀計(はうけい)をか設(まうけ)けん。軽忽(かろ〳〵しく)近着(ちかつき)て埋草(うめくさ)にな
なりそと。互(たかい)に尻込(しりこみ)して左右(さう)なく寄(より)つかす。猶予(ゆうよ)せしが。よく〳〵城上(じやう〳〵)をみれ
ば。旗(はた)指物(さしもの)は立(たて)ながら。樹林(じゅりん)に宿(ねくら)せし諸鳥(しよちやう)。囀(さへす)り戲(たはれ)て驚(おとろ)く躰(てい)なければ。なま
賢(さか)しき者ども。扨は空城(くうじやう)ならめと察知(さつち)し。小気味悪(こきみわる)ながら五七人 談(だん)し合(あひ)。近(ちか)〻(〳〵)
と進(すゝ)みより窺(うかゝ)ふに。弥(いよ〳〵)人音(ひとおと)なし。さればこそ案(あん)に不違(たかはず)と。各(おの〳〵)石垣(いしかき)を攀(よし)て城(しやう)
上(しゆう)へ乗込(のりこみ)。旗(はた)を以(もつ)て味方を指招(さしまね)き。赤松殿(あかまつどの)の御内(みうち)何某(なにかし)等(ら)。当城(たうしやう)の一番乗(いちはんのり)せり
かた〴〵続(つゝぎ)給へと呼(よばゝ)り。走(はし)り下て城門(しやうもん)を開(ひら)きければ。寄手(よせて)大きに腹(はら)を立(たて)。空城(くうしやう)
ともしらで。躊躇(ちうちよ)せしこそ悔(くや)しけれとつぶやきなから惣勢(さうぜい)乗込(のりこみ)。さるにても
厳(きび)しく四方(しほう)を囲(かこ)みしに。如何(いかゝ)して落失(おちうせ)しやらんと。隅(くま)〻(〳〵)を改(あらた)めければ。果(はた)して
大いなる抜穴(ぬけあな)有。人を入みせしむるに。一町(いつてう)許(はかり)行先(ゆくさき)を。早(はや)磐石(はんしやく)を以て切塞(きりふき[ママ])き