翻刻
事 不能(あたはず)浅井方も信長の強兵(きやうへい)に恐(をそ)れけるにや敢(あへ)て山を下りて戦(たゝか)はず
両陣 相守(あひまもつ)て徒(いたづら)にこそ過(すぐ)しける信長 佐久間(さくま)信盛(のぶもり)稲葉(いなば)伊豫守(いよのかみ)両
人をして山門に登(のぼ)らしめ一山の大 衆(しゆ)等(ら)朝敵(てうてき)に等(ひとし)き浅井朝倉を扶助(ふじよ)
し足利(あしかゞ)の将軍に敵対(てきたい)奉る罪(つみ)を責(せ)め先非(せんひ)を改(あらた)め浅井朝倉の両勢
追退(おひしりぞ)け義昭(よしあき)公に謝(しや)すべしと申 遣(つかは)しければ衆徒(しゆと)等(ら)弥(いよ〳〵)我意(がい)に募(つのり)殊(こと)更(さら)
朝倉家は代々 檀越(だんをつ)の好(よし)みも有ば見 捨(すて)がたきよし返答(へんたう)す爰(こゝ)におひて
信長も深(ふか)く山門を恨(うらみ)給ひ終(つい)には此山を焼払(やきはら)ひ思ひしらすべきとぞ憤(いきどを)
られける此 対陣(たいじん)に数日(すじつ)を送(をく)る程(ほど)に勢州江州の郷民(がうみん)ども爰(こゝ)かしこに
一 揆(き)を起(をこ)し乱妨(らんぼう)する事大方ならず就中(なかんづく)勢州 長嶋(ながしま)の一 揆(き)とも信
長公の令弟(れいてい)彦治郎 信興(のぶをき)の城を攻(せめ)て信興を討取(うちとり)殆(ほとんど)狼藉(らうぜき)多(おほ)かりし
かども軍務(ぐんむ)暇(いとま)なく制(せい)し正(たゞ)すべき様もなく信長ももて扱(あつか)ふて見へ給ふ