翻刻
凡(およそ)世上の災(わざはひ)といへる内/雷火天火(らいくはてんくは)等(とう)は
天の所為にして人力もて量(はかる)べからず
されど平生より心慮なく火をば麁(そ)
略になし其身計にあらで其/余災(よさい)
他人に及事偏にいたはしからすや
今嘉永三戌年二月五日は朝より
北風/烈(はけしく)折から朝五ツ半時麹町五丁め
裏通より失火して高貴の御□を始(はじめ)
御はた本其外大小の御屋敷/且(かつ)は神社
仏閣あまた類焼(るいせう)なしける故(ゆえ)諸人力を
尽(つくし)防消(ふせきけす)と雖(いへとも)風/強(つよく)して思はず広大(くはうだい)に至(いたり)
冬天をこがし煙(けふり)雲(くも)を染家居は崩(くづるゝ)音
すさまじく遠近に聞ておびたゝし其夜の亥刻に火は静(しづまり)て
諸人安堵の□□なすと雖斯も世の煩(わづらひ)とならん事其/恐不少(おそれすくなからず)
我も人もつてめて火の元を大事になし殊(こと)に下人などに猶(なを)
□く示て火を敬ひつかふときはかくつちの神の恵(めぐみ)をかふむり△下へ
《割書:上より|つゝく》△
其家ます〳〵富さかえて
火災をのがるゝよし古書に
見へたり其外火は人を養い
徳ありて其恩をしらず
みだりにあつかふ事ゆめ〳〵
有へからず是によりて
唯〻世の人の為にも成ぬ
べき事と遠方の人にも
しらせん便ともならんと
図をしるし拙言を添るのみ