Gallicaの日本資料を翻刻!

コレクション: コレクション6

BnF. Département des Manuscrits. Japonais 4260 (2) - 翻刻

BnF. Département des Manuscrits. Japonais 4260 (2) - ページ 20

ページ: 20

翻刻

【右丁】 さるほとに北の御かたは今ははやこの世におもひの こすことさらになし大納言殿御目をしのひ そうつのかたへまいりかみをおろしおもひのまゝ に後の世をねかひて侍従のきみかむまれん しやうと【浄土】へまいりひとつはちすになりなんと思ひ つめてめのとをめしておほせけるはいまははや ひめはありつけ【在り付け=結婚して落ち着かせる】はべりぬうき世におもひのこ すこと露はかりもなし御身もいまはこゝろ さしのあらんかたへゆきたまへ我もしほた いしん【菩提心】とけ【遂げ】てしつかなるかたにあんしつ【あんじつ(庵室)=世を捨てた人が住む仮のいおり】を 【左丁】 むすひなはを【「お」とあるところ】とつれをすへしそのときは かならすとひたまへとそのたまひけるめのと うけたまはりこはなさけなきことをうけたま はり候ものかなたとひとらおほかみのすむのへ のすへしゝくまのゐる谷のそこまてもはな れたてまつらしとこそおもひ侍れことにこれ はみつからもねかふところの御ほつこん【ほつごん(発言)】の御 のそみなれはいかてかはなれたてまつるへき もろともにたきゝをとり水をくみてひとつ はちすにむまれたてまつらんとそへしさふ

現代語訳

【右丁】 そうこうしているうちに、北の方は今はもうこの世に思い残すことは全くない。大納言殿に目を忍ばせて、僧都のもとへ参り、髪を下ろして思いのままに来世を願って、侍従の君が生まれるであろう浄土へ参り、同じ蓮の花に生まれようと思い詰めて、乳母を呼んでおっしゃったことには、「今はもう姫は結婚して落ち着きました。この憂き世に思い残すことは露ほどもありません。あなたも今は心の向くところへお行きなさい。私も菩提心を遂げて、静かな所に庵室を 【左丁】 結んで、縄を解いて弟子を据えましょう。その時は必ずお訪ねください」とおっしゃった。乳母は承って、「これは情けないことをお聞かせいただくものですね。たとえ人里離れた大神の住む野辺の果てでも、獅子や熊のいる谷の底まででも、お離れ申すまいと思っておりました。ことにこれは私自身も願うところのお発言のお望みですから、どうしてお離れ申すことができましょうか。一緒に薪を取り水を汲んで、同じ蓮の花に生まれさせていただこう」と申し上げた。