翻刻
それ髙(たか)きに昇(のぼ) 一登斎
りて地下(ちか)を見るときは眼(め) 芳綱写
眩暈(くるめ)き足奮(あしふる)ふ是すなはち
我(わ)が心に若過(もしあやま)ちて落(おち)たらんには
一 命(めい)に及(およ)ばんこと必定(ひつぢやう)と思(おも)ふが故に俄(にはか)
に心身戦慄(しん〴〵せんりつ)する也こゝに今度の
大 変(へん)にて崩(くづ)れたりし数(す)ケ処(しよ)の
中(うち)に半蔵(はんざう)御門に並(なら)びたる
石垣(いしがき)二十有余間 堤(つゝみ)は堀(ほり)へ
雪頽落(なだれおち)又 雪霰(ゆきはれ)て龍蟠(りやうわだかま)ると
吟(ぎん)じたる古(ふる)松も枝椊(えだくぢ)け根顕(ねあら)はれ
往来(わうらい)に横(よこ)たわり屏風(びやうぶ)に喩(たと)ふ切石(きりいし)も
算(さん)を乱(みだ)して揺(ゆれ)くづれ或(あるひ)は中空(はんと)に
ぬけかゝりて今にもあれ頭(づ)上えも
落(おち)かゝるべき形勢(ありさま)は見あくるも
《?:酷(おそ)》【魅ヵ】ろしく歩行んと
するに足(あし)も出(いで)す這(は)ふ斗り
にて見来(みきた)ると咄(はな)せる人(ひと)の
其儘(そのまゝ)をこに摸(も)写して後(のちの)
世(よ)の咄しの種(たね)に残(のこ)さんと
なり
金瓶書【竹葉舎金瓶ヵ】