翻刻
【右丁】
[時計草(とけいさう)
ほじろ草
ともいふ]
花(はな)色(いろ)白(しろ)し花 蕊立(しのだち)かたち風車(かざくるま)のごとく内に茶筌(ちやせん)の
ほのごとくきざ有 二廻(ふたまは)り立(たち)其(その)とまり紺色(こんいろ)也其うちに
高砂百合(たかさごゆり)のごとくなるもの五つ長(なが)く立(たち)花の底(そこ)黄(き)いろ
うちの方 白(しろ)く黄(き)色のふち取(とり)又其のうちに本紫(ほんむらさき)わらび手(て)の丁子(てうじ)
がしら蜘蛛手(くもて)のしん立(たち)そのしんの根(ね)に紫色 髪(かみ)すじのごとく小(ちいさく)
ほそきものしべにて取廻(とりまは)しくも手(て)のしんのうち亦(また)茶(ちや)色 米(け)
嚢(し)花の実(み)のごとく成(なる)もの長く立(たつ)花四つ時より開(ひら)き八つ時迄かゝへ日
に向(むか)ふ花しべのきざ廻(まは)ること時計(とけい)のごとく四月より咲出(さきだ)し七八月まて咲
【縦罫線】
[春蘭(しゆんらん)《割書:一名》独頭蘭(とくとうらん)]葉(は)蘭(らん)に似(に)て小(ちいさ)し春(はる)白(しろ)うす紅(べに)の花を開(ひらく)らんのごとし二月花
【縦罫線】
[郭公(ほとゝぎす)
草(さう)]
花(はな)の形(かたち)桔梗(ききやう)の花びらのかゝりにて細手(ほそで)也色 数(かず)多(をゝ)し白あり
柿紅(かきべに)有(あり)又 本黄(ほんき)うす黄有花びら白く内に黒紅(くろべに)色のほし
入を山ほとゝぎすといふ葉さゝばにしてあつく茎(くき)をまいて出る葉の
上(うへ)に黒きほし有又なきも有 茎葉(くきは)ともにうすき毛艸(ひげ)有うぐひす
草(さう)とよぶも是よりわかちてよぶ也九月花 咲(さく)長(たけ)二 尺(しやく)あまりなり
【左丁】
[さくらな
さくら草
《割書:品多し|三月より|四月迄| 花さく]》
花の形(かたち)桜(さくら)花のごとくしのだち廻(まは)り咲(さく)花に色 数(かず)多(をゝ)し白 或(あるひ)は
雪白(ゆきしろ)紫(むらさき)又 咲分(さきわけ)うす紫 飛入(とびいり)有咲分桜草は今のしぼりにあらず
一りんの花びらに紫と白と色 分(わか)るうす紫は花 少(すこ)し大りん小町(こまち)桜草
といふ飛入りはしぼりさくら草 錦(にしき)桜草又咲分さくら草といふ長六七寸
【縦罫線】
[春けい《割書:三月| 花》]葉(は)しらんに似(に)てひろくやはらかなりはなのかた
ちらんのごとく色 黄(き)うこんなり葉にしろきほしあり
【縦罫線】
[やまぶき
棣棠(ていたう)
酴醿花(どびくは)]
花はなはだ黄いろにしてかたち庭(には)ざくらのごとく葉は
金(きん)のういばらのごとくちゞみあり一 種(しゆ)は一重(ひとへ)此花山ざくら
のごとく又色に二 種(しゆ)あり一種は白くしの立(だち)いばらの
ごとし二三月花 咲(さく)又秋より冬迄咲くかへり花も有 山原(やまはら)に生(しやう)ず
【縦罫線】
[ゆきの下
《割書:一名》石荷(せきか)
《割書:又》虎耳草(こじさう)
といふ]
花三月咲 真中(まんなか)より蕨(わらび)のごとく出(いで)て花形雪のごとし葩(はなびら)
三 枚(まい)は小(ちい)さし二枚は大(をゝい)にして長(なが)し花色白葉の形(かたち)丸く雪輪(ゆきわ)
のもやうのごとくにしてあつし葉のうら若葉(わかば)は本紅(ほんべに)古(ふる)はは
薄紅(うすべに)也 表(をもて)に薄(うす)白き筋(すじ)有 根下(ねのした)より長き蔓(つる)出(いで)て先(さき)にめがい生(しやう)ず地(ぢ)に根(ね)ををろす
【[ ]内の文字は枠で囲まれている。続きの文章はその枠の下から始まる。以降のコマ同】
現代語訳
【右丁】
[時計草(トケイソウ)
ホジロ草
ともいう]
花の色は白で、花の蕊の立ち方が風車のような形をしており、内側に茶筅の穂のような細かい刻みが二回りに立っている。その先端は紺色で、その内側に高砂百合のようなものが五つ長く立っている。花の底は黄色で、内側は白く黄色の縁取りがある。またその内側に本紫のわらび手の丁子頭、蜘蛛手の芯が立ち、その芯の根元に紫色の髪の毛のように小さく細いものが雌蕊となって取り巻いている。蜘蛛手の芯の内側はまた茶色の米袋(花の実)のようなものが長く立っている。花は四時頃から開き八時頃まで咲き、太陽に向かう花で、雌蕊の刻みが回ることが時計のようである。四月から咲き始め七八月まで咲く。
[春蘭(シュンラン)《別名》独頭蘭(トクトウラン)]葉は蘭に似て小さい。春に白いうす紅の花を開く。蘭のようで、二月に花が咲く。
[郭公草(ホトトギス草)]
花の形は桔梗の花弁の掛かりで細身である。色は数多くあり、白もあり、柿色もあり、また本黄、うす黄もある。花弁が白く内側に黒紅色の斑点が入るものを山ホトトギスという。葉は笹葉で厚く、茎を巻いて出る。葉の上に黒い斑点があるものとないものがある。茎葉ともに薄い毛がある。ウグイス草と呼ぶのもこれから分けて呼ぶのである。九月に花が咲く。高さは二尺あまりである。
【左丁】
[桜菜
桜草
《品種多数|三月より|四月まで|花咲く》]
花の形は桜の花のようで、雌蕊が立ち回りに咲く。花に色数多く、白あるいは雪白、紫、また咲き分け、うす紫、飛び入りがある。咲き分け桜草は今の絞りではなく、一輪の花弁に紫と白の色が分かれる。うす紫は花が少し大きく、小町桜草という。飛び入りは絞り桜草、錦桜草また咲き分け桜草という。高さ六七寸。
[春蛍《三月|花》]葉は白蘭に似て広く柔らかい。花の形は蘭のようで色は黄うこんである。葉に白い斑点がある。
[山吹
棣棠(テイトウ)
酴醿花(ドビクハ)]
花は非常に黄色で形は庭桜のようく、葉は金のうい薔薇のように縮みがある。一種は一重で、この花は山桜のようである。また色に二種あり、一種は白く雌蕊が立ち、薔薇のようである。二三月に花が咲き、また秋から冬まで咲く帰り花もある。山原に生える。
[雪の下
《別名》石荷(セキカ)
《また》虎耳草(コジソウ)
という]
花は三月に咲く。真ん中から蕨のように出て、花形は雪のようである。花弁三枚は小さく、二枚は大きくて長い。花色は白。葉の形は丸く雪輪の模様のようで厚い。葉の裏は若葉は本紅、古い葉は薄紅である。表に薄白い筋がある。根元から長い蔓が出て先に芽が生える。地面に根を下ろす。