翻刻
温泉(をんせん)の滝(たき)に打(うた)せ大効直(たいこうたゝ)ちに顕(あらわ)れ妙(めう)なる者(もの)は
竹木針釘(ちくもくはりくぎ)のるい踏刺(ふみさ)し肉(にく)の中(なか)に残(のこ)りて疵口(きつくち)
腫(は)れ出(いだ)し或(あるひ)は腐(くさ)れ敗(やふ)る故(たるがゆへ)に痛(いた)みも甚(はなは)だ多(おほ)し
其時(そのとき)に於(をゐ)て疵口(きつくち)を白(しろ)き木綿(もめん)にて包(つつ)み其刺(そのさ)し
入(い)りたる所(ところ)を滝(たき)に打(うた)せべし必(かなら)ず刺口(さしくち)に抜(ぬ)け
出(い)で来(く)ること疑(うたか)ひなかるべし最(もつと)も肉(にく)の中(なか)に
微塵(びぢん)の程(ほと)も残(のこ)さず出(だ)し払(はら)つて而(しかう)して正肉(せいにく)を
上げ尋常(じんぢやう)にして終(つ)ひに愈(いや)る?者(もの)なり但(たゞ)し入(い)り
たる者出払(ものではら)ふなりたりと思(おも)ふ時(とき)は必(かなら)ず滝(たき)に
打(うた)れるを止(や)むべし
《箱:第六》
温泉上(ゆあが)り暑(あつ)さとて裸(はだか)へ風(かぜ)を吹(ふ)き醒(さま)しは甚(はなは)た
あしく又湯上(またゆあが)り直(たゞ)ちに床(とこ)に寐入(ねい)り熱気(ねつき)を籠(こも)
らして?猶々(なほ〳〵)わろし通常(つね)の入浴定度(にうよくていど)の一|昼夜(ちうや)
五|回(ど)を期(き)とす故(る事がゆへ)に湯上りの時間(じかん)には必鬱散(かならずうつさん)
遊楽(ゆうらく)をなして心(こゝろ)を安(やすん)し目(め)には山々(やま〳〵)の景色艸(けしきさう)
花(くわ)を見(み)せ口(くち)には宜(よろ)しき音声(おんせい)を発(はつ)し耳(みゝ)に珍説(ちんせつ)
美談(びだん)を聞(きか)せ悉(こと〳〵)く歩行運動(ほこううんどう)をなし然(しか)して定度(ていど)
の時間(じかん)に浴(よく)するを宜(よろ)しとす
《箱:第七》