翻刻
来らずさらぬ道をゝしへん
との給へは。新右衛門も実(けに)もとや思はれけん。其後はおと
せずなりけり人みな是を聞てまことに人間には
あらず。たゞ仏菩薩(ぶつぼさつ)のかりにあらはれ。ひとり来てひと
り帰るみちといへば。来らずさらぬとの給ふ。扨も有がたや
と。見る人聞人あかねのかわをすりて。おがまぬもの
はなかりけり。老子の云(いわく)。死(し)してもほろびざるもの
はいのちながしといへるは。かゝるためしなるべし
【以下OCRのまま】
【新右衛門が女房の事】
『九』新を番が最愛の妻いとけなき時よりよろつ
心みぢかく。たけ〳〵しかりければ。かなしき者にも
じひのめぐみなく。めしつかふわらはにも。哀情のな
さけうすかりけり。されば人は似を友とするならひ成
に懐道の居士になれそひてだうときをしへをし
らざりける事。いか精むくひのはちなるべしとみな
人ごとにさみしける新右衛門あけくれふびんに思ひ
てもとより道者の事なれはたましゐをくだき
にうはのおしへをすゝめける。しかれ共露したがふ
けしきみえざりけり。ある時あまりいたくせいし
ければ。女房かほをあかめて聞えけるやに
あさ糸のながしみじかしみじかしや
うむのふたつにいつかはなれん
とたゞかやうによみておともせず親当おどろき
納ま
中巻