翻刻
【右頁】
れた。だが、 正義(せいぎ)と人道(じんどう)の前(まへ)に、一 死(し)を辭(じ)せ
ぬ神(かみ)の子(こ)イエス、そしてその使徒達(しとたち)にカヤパ
の迫害(はくがい)が何(なん)であらう。 彼等(かれら)はカヤパ一 味(み)の壓(あつ)
迫(ぱく)を、その眞實心(しんじつしん)を以(もつ)て悉(ことごと)く打(う)ち碎(くだ)き乍(なが)ら、
つひに奇蹟(きせき)の日(ひ)をヱルサレムにさへ持(も)つ日(ひ)に
會(あ)つた。--カヤパの迫害(はくがい)の手(て)は、しかしな
かなか止(や)まうとはしない。
【左頁】
--ヱルサレムのある日(ひ)。--姦淫(かんいん)の罪(つみ)に問(とは)
れた婦女(ふじよ)があつた。 人々(ひと〴〵)は彼女(かのぢよ)を石責(いしぜめ)の刑(けい)に
處(しよ)せんとした。これを聞(き)いて喜(よろこ)んだのはカヤ
パである。 彼(かれ)は早速(さつそく)イエスをして、この群集(ぐんしう)
の與論(よろん)の中(なか)にある女(をんな)の罪(つみ)を裁(さば)かしめたのであ
つた。 群集(ぐんしう)は彼(かれ)の裁(さば)きに片唾(かたづ)を呑(の)んだ。
「汝等(なんぢら)の中(うち)、 罪(つみ)なきものがまづ石(いし)を投(な)げよ」
人(ひと)の子(こ)として、 誰(たれ)が女(をんな)に石(いし)を打(う)てやう。カヤ
パの奸計(かんけい)は又破(またやぶ)られてしまつた。
人々(ひと〴〵)は起(た)つた。「イエスを王様(わうさま)にせよ」と
叫(さけ)んで起(た)った。イスカリオテのユダがその先(せん)
頭(とう)を切(き)つてゐた。 彼(かれ)は、イエスが王位(わうゐ)につけ
ば使徒(しと)であるおのれも高位(かうゐ)に陞(のぼ)れるといふ野(や)
望(ぼう)に執着(しうちやく)してゐたのであつた。
「私(わたし)の王國(わうこく)はこの地上(ちじよう)ではない!」--イエ
スは極(きわ)めて靜(しづか)であつた。
かうして、 瞬(またた)くうちにおのれの野望(やぼう)の的(まと)を失(うしな)
つたユダは、あさはかにも主(しゆ)イエスを、三十
枚(まい)のデナリの銀(ぎん)に換(か)へてしまつた。
最後(さいご)の聖餐(せいさん)。--ゲッセマネの花園(はなぞの)のわかれ
--イエスはすでに來(きた)るべき運命(うんめい)を知(し)る!
かくて、 月蒼(つきあを)きゴルゴダの丘(をか)に、 荊(いばら)の冠(かんむり)を
戴(いたゞ)いた神々(かう〴〵)しい白衣(びやくえ)のキリストは十 字架(じか)を負(を)
つてゐた。そして、--靜(しづ)かに、 靜(しづ)かに昇天(せうてん)
への眠(ねむり)に就(つ)いてゐた。
現代語訳
【右頁】
れた。だが、正義と人道の前に、一死を辞さない神の子イエス、そしてその使徒たちにカヤパの迫害が何であろう。彼らはカヤパ一味の圧迫を、その真実心を以ってことごとく打ち砕きながら、ついに奇跡の日をエルサレムにさえもたらす日に会った。--カヤパの迫害の手は、しかしなかなか止もうとはしない。
【左頁】
--エルサレムのある日。--姦淫の罪に問われた婦女があった。人々は彼女を石打ちの刑に処そうとした。これを聞いて喜んだのはカヤパである。彼は早速イエスをして、この群衆の世論の中にある女の罪を裁かせたのであった。群衆は彼の裁きに固唾を飲んだ。
「汝等の中、罪なき者がまず石を投げよ」
人の子として、誰が女に石を打てようか。カヤパの奸計は又破られてしまった。
人々は起った。「イエスを王様にせよ」と叫んで起った。イスカリオテのユダがその先頭を切っていた。彼は、イエスが王位につけば使徒である自分も高位に昇れるという野望に執着していたのであった。
「私の王国はこの地上ではない!」--イエスは極めて静かであった。
こうして、瞬くうちに自分の野望の的を失ったユダは、浅はかにも主イエスを、三十枚のデナリの銀に換えてしまった。
最後の聖餐。--ゲッセマネの花園の別れ--イエスはすでに来るべき運命を知る!
かくて、月蒼きゴルゴダの丘に、茨の冠を戴いた神々しい白衣のキリストは十字架を負っていた。そして、--静かに、静かに昇天への眠りに就いていた。
英語訳
【Right Page】
However, what could Caiaphas's persecution mean to God's son Jesus, who would not hesitate to die for justice and humanity, and to his apostles? They crushed all of Caiaphas's faction's oppression with their sincere hearts, and finally brought the day of miracles even to Jerusalem. --Yet Caiaphas's persecuting hand would not cease.
【Left Page】
--One day in Jerusalem. --There was a woman accused of the sin of adultery. The people were about to subject her to the punishment of stoning. Caiaphas was delighted to hear of this. He immediately had Jesus judge the woman's sin before the public opinion of the crowd. The crowd held their breath for his judgment.
"Let him who is without sin among you first cast a stone"
As children of man, who could throw stones at the woman? Caiaphas's cunning scheme was again thwarted.
The people arose. They arose crying "Make Jesus our king!" Judas Iscariot was leading them. He was obsessed with the ambition that if Jesus became king, he as an apostle would also rise to high position.
"My kingdom is not of this earth!" --Jesus was extremely calm.
Thus, having lost the object of his ambition in an instant, Judas foolishly exchanged Lord Jesus for thirty pieces of silver denarii.
The Last Supper. --The farewell in the Garden of Gethsemane --Jesus already knows his coming fate!
And so, on the moon-pale hill of Golgotha, Christ in divine white robes wearing a crown of thorns bore the cross. And --quietly, quietly he went to sleep for his ascension to heaven.