翻刻
化物のでる
ときにはなま
ぐさきかせを
ふかしていつるが
おさだまり也
しかれども
まだこゝろ
へぬばけものは
なまぐさきか
せとふかすこと
をしらずまし
ていなかのにた山【仁田山=まがいものの事?】
ばけものども
さよふのことはしる
はづはなしとみこし
入道くふうしてかね
もふけせんと
ふいこをこしらへこの
うちへさかなのほねの
くさりたると【を?】いれて
おきこのふいこより
かぜをふかすと
なまぐさき
にほいがする
ゆへみこし入道
【左ページへ】
よし〳〵
できたこれこそは
ばけものゝてるとき
せひなくてはならぬ
しろものひとりまへ
ふいごひとつづゝはみな
かいそふなものたと
おびたゞしくしこみ
さあうりかけよふと
いつたところが
うろたへてかうもの
もあれともおゝくは
いや〳〵なまくさい
かぜをふかして
でるはよかれ
どもひよつ
とだいじの
しやうじんの
ひにもわす
れてふいこを
もちいまい
ものでもないから
これはいらぬものだと
かいてはなしいなかの
ばけものはとふしても
せうじき也【正直】
【右ページ下、台詞】
〽すい〳〵の
すいとてな
どふだ〳〵
〽くさいは〳〵
なるほど
おいらで
さへ
むねの
わるく
なるほど
なまく
さい
【左ページ下、台詞】
すい
〳〵〳〵
すゝ
らすい
のす
い
くさい
にほいた
〽このかぜをふかして
でるとかくへつはへる【格別映える】
ひやうどろばかり
ではあしながじま
あんまがころびで
もしたよふで
かつこうが よく
ねへ
【ひやうどろはお芝居で幽霊が出る時の音響効果。足長島は足が胴の何倍も長い人が住むという伝説の島か。ひやうどろばかりでは悪し→足長島と続ける洒落になっている】
現代語訳
化け物が出るときには生臭い風を吹かせているのがお決まりである。しかれども、まだ心得ぬ化け物は生臭い風を吹かすことを知らず、まして田舎の偽物の化け物どもは、そのようなことは知るはずがないと神輿入道は工夫して、金も儲けようと、ふいごを作らせ、この中へ魚の骨の腐ったのを入れておき、このふいごより風を吹かすと生臭い匂いがするようにした。それで神輿入道は
「よしよし、できた。これこそは化け物が出るとき是非なくてはならぬ品物だ。一人前ふいご一つずつは皆買いそうなものだ」とおびただしく仕込んで、「さあ売りかけよう」と言ったところが、
うろたえて買う者もあれども、多くは「いやいや、生臭い風を吹かして出るのはよかれども、ひょっと大事の精進の日にも忘れてふいごを用いまいものでもないから、これはいらぬものだ」と買っては放し。田舎の化け物はどうしても正直である。
♪「すいすいのすいとて、などうだ」
♪「臭いわあ。なるほど、おいらでさえ胸の悪くなるほど生臭い」
「すいすいすい、すすら すいのすい」
「臭い匂いだ」
♪「この風を吹かして出ると格別映える。ひょうどろばかりでは足長島、按摩が転びでもしたようで格好がよくない」
英語訳
When monsters appear, it is customary for them to blow foul-smelling wind. However, monsters who don't yet understand this don't know how to blow such stinking wind, and especially the fake country monsters have no way of knowing such things. So the palanquin goblin devised a plan to make money too: he had bellows made, put rotting fish bones inside them, and when wind was blown from these bellows, they would produce a fishy stench. Thus the palanquin goblin said:
"Good, good, it's done! This is an absolutely essential item when monsters appear. Each monster should want to buy one bellows apiece." He stocked up tremendously and said "Now let's start selling!"
Some panicked and bought them, but most said "No, no, while it's good to blow stinking wind when appearing, we might forget and accidentally use the bellows even on important days of religious purification, so this is something we don't need," and they bought but then returned them. Country monsters are honest no matter what.
♪ "Sui-sui-no-sui, how about it?"
♪ "How stinky! Indeed, even I feel sick from how fishy it smells"
"Sui-sui-sui, susura sui-no-sui"
"What a stinking smell"
♪ "When you appear blowing this wind, it looks exceptionally impressive. With just 'hyoudoro' sounds alone, it's like Ashinaga Island - like a blind masseur tumbling over, it doesn't look good at all"