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翻刻
【右丁】
藤原(ふぢはらの)義孝(よしたか)
君(きみ)がため
をしから
ざりし
命さへ
ながくも
がなと
おもひける
かな
【左丁】
五十番
右の哥の心はひとたびあふことあらばつゆ
のいのちもをしからじ死すともおもひ
おくことなしなんど思ひしが君にあふて
たちわかれなごりをしさの
せつなるまゝに日ごろ
おもひし心はいつしかに
引かへて今はたゞ我
いのちのながかれ
かしいつまでもちぎ
りてといふ心になり
たりといへりもつとゝ【「もつとも」とあるところか。】
あはれふかき哥なり
【画面右下部】
一陽斎
豊国【國】画
現代語訳
【右丁】
藤原義孝
君がため
惜しからざりし
命さえ
長くもがなと
思いけるかな
【左丁】
五十番
右の歌の心は、「一度あなたに会うことがあれば、露のような儚い命も惜しくない、死んでも構わない」などと思っていたが、君に会って別れた後、別れの辛さが切ないあまり、日頃思っていた心はいつの間にか変わって、今はただ「我が命が長く続いてほしい、いつまでもあなたと契りを結んでいたい」という気持ちになったということである。もっとも情趣深い歌である。
【画面右下部】
一陽斎豊国画
英語訳
【Right Page】
Fujiwara no Yoshitaka
For your sake
I thought my life
not worth preserving—
yet now I wish
it could last forever
【Left Page】
Number Fifty
The sentiment of the poem on the right is as follows: "If I could meet you just once, I wouldn't regret losing this life as fragile as dew, I wouldn't mind dying"—such were my thoughts. But after meeting you and parting, the pain of separation was so intense that my former feelings transformed completely. Now I only wish for my life to be long so that I may be bound to you forever. This is indeed a deeply moving poem.
【Bottom Right of Image】
Drawn by Ichiyōsai Toyokuni