翻刻!石本コレクション

コレクション: ステージ1

生捕ました三度の大地震 - 翻刻

生捕ました三度の大地震 - ページ 1

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生捕(いけどり)ました三(さん)度の大 地震(ぢしん) だいく 〽えゝもしだんなこのてつゝのわるひ  ところはとくといひきけやして  とも〴〵おわびをいたしやしやうから  まあともかくもわつちらにおあづけ  なすつてくださいやしじつのことわつちら  はじめでしやらうまで日壱分とつて  すきなすゐをたらふく けづり(呑)やすのも  このしやうのおかげでごぜへやすから  みにかへてもこのおわびをいたさにや  なりやせんのをかしら とびの者 〽そうさ〳〵おめへのいふとをり  こんなことでもなくつ  ちやああい【の?】つのつらあ  見にゆくこともでぎ  やせんもし〳〵  こか【ら?】あ一ばん  わつちらが  つらあたてゝくだ  せへましな 左くわん 〽あのしゆうの申  ますとをり人の  うれひをよろこぶ  のではございませんが  こんなことでもなけ  りやあはなのしたが  ひあがりますのを【ヲ】  やね屋さんおめへなん  ぞもそふじやあねへか やね屋 〽ほんとうにさ  つくろひしごと  ぐれいしてゐた  日にやあすきな  こめの水がのめや  せんこちとらが  ためにやあ  いはゞいの  ちのおや  どうぜんで  ござり  ます  どうぞ△ △かんべんしてやつてください  まし や師 〽へえ〳〵わたくし  なんぞもぢしんさまの  おかけで五ほんや六ほんのお  あしはあさのうちにもとり升  からぢしんまへのこめ  やのかりも五つき  たまつたたな  ちんもすつ  はりすま  し  ました  そこらこゝ  らもおかんがへ  なすつて  どうかこんどの  ところはお見  のがしくださひ  まし  て  ならふ  ことなら  こり  なく  なつた  じふん  おつか  まへくだ  さいまし  またぜに  もうけが  できます  からとてまへ  がつてをならべ  だ【「ゝ」があるか?】てゝごた〳〵※ ※わびことを  するにかしまの  かみもこゝろにおか  しくわらひをふくみ  けるがわざとこゑをあららげ 〽いゝやならぬかゝるつみ  あるやつをゆるしおき  なば日本六十余州の  なまづどもよきことに  こゝろへまた〳〵かやうに  しよ人んにうなんぎをさせ  市中(しちう)を大 家破(かば)やきになさんも  はかられねばいごの見せしめに  なべやきのけいにおこなふべしと  さらにきゝいれ給はざればせんかた  なくみな〳〵ためいきをつき□ 〽ゆりせまあどうせう汁  しいひやした

現代語訳

生け捕りました三度の大地震 大工 「ええ、もし旦那、この鉄砲(地震を起こすこと)の悪いところは、とくと言い聞かせましたので、ともかくもお詫びをいたしましょうから、まあともかくも私たちにお預けなさってください。実のところ、私たちは初めてでございましょうまで、日に一分取って、好きな酒をたらふく飲むのも、このお方(鯰)のおかげでございますから、身に代えてもこのお詫びをしなければなりません」 鳶の者 「そうそう、お前の言う通り、こんなことでもなくては、こちらの面(つら)を見に行くこともできませんもし。ここから一番、私たちが面を立ててくださいまし」 左官 「あのお方の申します通り、人の憂いを喜ぶのではございませんが、こんなことでもなければ鼻の下が干上がりますので、屋根屋さん、お前なんぞもそうじゃないか」 屋根屋 「本当にさ、修繕仕事をしていた日には好きな米の水(酒)が飲めません。こちらのためには、言わば命の親も同然でございます。どうぞ勘弁してやってください」 医師 「はいはい、私なんぞも地震様のおかげで五本や六本の足(治療費)は朝のうちにも取れますから、地震前の米屋の借りも五月溜まった店賃もすっかり済ませました。そこらここらもお考えなさって、どうか今度のところはお見逃しください。ならうことなら、懲りることなくなった自分をお使いください。また銭儲けができますから」 と、勝手なことを並べ立てて、ごたごたと詫び事をするので、鹿島の神も心におかしく笑いを含まれたが、わざと声を荒らげて 「いいや、ならぬ。かかる罪あるやつを許しておいては、日本六十余州の鯰どもが、よきことに心得、また再びこのように諸人に難儀をさせ、市中を大破壊にしようも計られねば、後の見せしめに鍋焼きの刑に行うべし」 と、さらに聞き入れ給わざれば、仕方なく皆々ため息をつき 「ゆり(許し)してください、まあどうしましょう」と言った。

英語訳

The Great Catfish Captured Three Times During the Great Earthquakes Carpenter: "Well, sir, we have thoroughly explained the wrongdoing of this 'gun' (causing earthquakes), so we will apologize in any case. Please entrust this matter to us. In truth, since this is our first time, taking one bu per day and drinking our fill of sake is all thanks to this fellow (the catfish). We must make this apology even at the cost of our lives." Fireman: "Yes, yes, just as you say. Without such events, we wouldn't even have the chance to show our faces here. From here on, let us be the first to stand up for you." Plasterer: "As that gentleman says, it's not that we rejoice in people's suffering, but without such events, we'd be left high and dry. Roofer, isn't it the same for you?" Roofer: "Indeed it is. On days when I do repair work, I can't even drink my favorite rice wine (sake). For us, this is like a life-giving parent. Please, have mercy on him." Doctor: "Yes, yes, even someone like me can earn five or six fees in a single morning thanks to the earthquake deity. I've paid off both my debts to the rice dealer from before the earthquake and five months' worth of accumulated shop rent. Considering all this, please overlook this matter. If possible, please employ this reformed version of myself. I can make money again." As they selfishly made these arguments and created a commotion with their apologies, the Kashima deity inwardly found it amusing and smiled, but deliberately raised his voice harshly: "No, this cannot be permitted. If we forgive such a sinful creature, the catfish throughout Japan's sixty-odd provinces will think it acceptable and cause such suffering to the people again, bringing great destruction to the cities. As a warning for the future, he shall be subjected to the punishment of being grilled in a pot." Since he would not listen to their pleas at all, they had no choice but to sigh and say, "Please have mercy on us. What shall we do?"