翻刻!石本コレクション

コレクション: ステージ1

しばらくのそとね - 翻刻

しばらくのそとね - ページ 1

ページ: 1

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【タイトル】 雨(あめ)には 困(こま)り【三升紋は市川家の紋所。「ます」と読ませ「雨には困ります」】野(の)じゆく しばらくのそとね【「暫のつらね」のもじり】 市中三畳【団十郎の俳号「市川三升」に野宿の仮小屋三畳敷「市中三畳」を掛けている】 自作 【イラスト上の本文】 東医(とうい) 南蛮(なんばん)骨(ほね) 接(つぎ)外料(ぐわいりやう)日(ひゞ)発(はつ) 行(かう)地震(ぢしん)出火(しゆつくは)の その間(あいだ)にけが をなさゞ るもの あらん や 数(かず) 限(かぎ)り なき 仲(なか)の 丁(ちやう)先(まづ) 吉原(よしはら)が 随市川(ずいいちかは)つぶ れし家(いへ)の荒(あら) 事(ごと)に忽(たちまち)火事(くはじ)に 大太刀(おほだち)は強(つよ)くあたりし 地(ぢ)しんの筋隈(すぢくま)日本堤(にほんづゝみ)の われさきと転(ころ)びつ起(おき)つかけ ゑぼしきやつ〳〵と騒(さは)ぐ猿若(さるわか)町 芝居(しばゐ)の焼(やけ)も去年(こぞ)と二度重(にどかさ)ね鶴菱(つるびし) 又灰(またはい)を柿(かき)の素袍(すほう)は何(いづ)れも様(さま)なんと 早(はや)ひじや厶り【「ござり」】ませぬか実(じつ)に今度(こんど)の大(たい) 変(へん)は嘘(うそ)じや厶らぬ本所(ほんじやう)深川(ふかがは)咄(はなし)は築地(つきぢ)芝(しば) 山(やま)の手(て)丸(まる)の内(うち)から小川町(をがはまち)見渡(みわた)す焼場(やけば)の赤(あか)つつら 太刀下(たちした)ならぬ梁下(はりした)に再(ふたゝ)び鋪(しか)れぬ其(その)為(ため)に罷(まか)り出(いで)たる某(それがし)は 【イラスト下の本文】 鹿嶋(かしま)太(だい)神宮(じんぐう)の 御内(みうち)にて磐石(ばんじやく) 太郎 礎(いしずへ)けふ 手始(てはじ)めに 鯰(なまず)をば 要石(かなめいし)に て押(おさ)へし上は 五重(ごぢう)の 塔(とう)の九(く) 輪(りん)はお ろか一厘(いちりん) たり共 動(うご)かさ  ぬ誰(たれ) だと思(おもふ) アヽつがも 内証(ないしよ)の 立退(たちのき)芸(げい) 者(しや)の鐗酒(かんさけ) 焼(やけ)たつぶれ た其中(そのなか)で 色(いろ)の世(せ)かいの繁(はん) 昌(じやう)は動(うご)かぬ御世(みよ)の 御恵(おんめぐみ)ありが太鼓(たいこ)に鉦(かね) の音(をと)絶(たへ)ぬ二日の大せが きホヽつらなつて坊主(ぼうず)  

現代語訳

【タイトル】 雨には困ります野宿 しばらくの外寝 市中三畳 自作 【イラスト上の本文】 東洋医学 南蛮流骨接ぎ外科治療 毎日営業 地震、出火の その間に怪我を しない者が あろうか 数限りない 仲の町、まず 吉原が 市川(座)と共に潰れた 家の荒事のように、たちまち火事になり 大太刀は激しく当たった 地震の筋隈(化粧)、日本堤の 我先にと転びつ起きつ駆け 烏帽子をつけた連中がやかましく騒ぐ猿若町 芝居(小屋)の焼失も去年と今年の二度重ね、鶴菱(紋所) また灰となった、柿色の素袍はどれも様子がなんと 早い事でございませんか、本当に今度の大 変事は嘘ではございません、本所、深川、話によると築地、芝、 山の手、丸の内から小川町、見渡す焼け野原の赤い顔 太刀の下ではなく梁の下に、再び敷くことのできない、その為に参上いたしました私は 【イラスト下の本文】 鹿島大神宮の ご内陣にて磐石 太郎礎 今日 手始めに 鯰を 要石にて 押さえた上は 五重の塔の九輪は おろか一厘 たりとも 動かさぬ 誰 だと思う ああ、妻も 内密の 立ち退き、芸者の 燗酒 焼けて潰れた その中で 色里の世界の繁 栄は動かぬ御世の ご恩恵 ありがたい太鼓に鐘 の音の絶えない二日の大施餓鬼 ほほ つらなって坊主

英語訳

【Title】 Trouble with Rain - Sleeping Outside Temporary Outdoor Rest City Three Tatami Mats Self-made 【Text Above Illustration】 Eastern Medicine Western-style Bone-setting External Treatment - Daily Practice During earthquakes and fires, who could avoid getting injured? Countless people in Nakanochō, first of all Yoshiwara collapsed together with the Ichikawa (theater), like the aragoto (kabuki style) of destroyed houses, immediately caught fire the great sword struck fiercely earthquake makeup lines, at Nihonzutsumi everyone rushing, falling and getting up the eboshi-wearing crowd noisily clamoring in Saruwaka-chō The theater burning was also a double disaster from last year and this year, Tsurubishi (family crest) turned to ash again, the persimmon-colored court dress, how quickly everything changed Truly, this great disaster was no lie - Honjō, Fukagawa, and according to reports, Tsukiji, Shiba, Yamanote, Marunouchi to Ogawa-chō, the red faces of the vast burned areas Not under the sword but under the beams, unable to be laid again, for this reason I have come forth 【Text Below Illustration】 At Kashima Great Shrine in the inner sanctuary, Solid Rock Tarō Ishizue, today as a beginning pressed down the catfish with the keystone, now that it's secured not even the nine rings of a five-story pagoda, let alone one rin will move. Who do you think I am? Ah, even my wife secretly evacuated, geishas' warmed sake burned and collapsed in the midst of all this the prosperity of the pleasure quarters is the blessing of an unshakeable reign. Grateful drums and bells whose sounds never cease, the great segaki ceremony of the second day lined up, monks...