翻刻!地震・災害史料

コレクション: NDL地震・火山

艱難目異志. 上,下 - 翻刻

艱難目異志. 上,下 - ページ 20

ページ: 20

翻刻

【右丁】   八  八坂(やさか)の塔(たう)修造(しゆざう)并 塔(たう)の上(うえ)にあかりし人の事 八坂の塔(たう)はいにしへ後鳥羽院(ごとばのゐん)いまだいとけなく【こどもらしくあどけなく】 おはしましけるが御時に御くちすさひ【「くちずさび」=「くちずさみ」…なんとなく物を言う。】に東寺(とうじ)の塔(たう)と 八坂の塔(たう)とくらべてみれば八坂(やさか)の塔(たう)はまだうゝい〳〵 やとおほせられしとかや右衛門の局(つぼね)が日記(につき)には しるしをきけりある時この塔(たう)のゆがみたりしを 浄蔵貴所(じやうざうきそ)といへる聖(ひじり)いのりなをされけりそれ よりこのかたはふたゝび浄蔵貴所(じやうざうきそ)も世に出給はね はこの塔(たう)ゆがみてもいのりなをす人もなかりしに よき事を案(あん)じいだしゆがみたるううしろのかた に池(いけ)をほりぬればをのづからなをるゆがみの 【左丁】 なをりぬればその池をうづむ【埋める】とかや しかるにこの ころ八坂(やさか)の塔(たう)のうへそこねて【そこなわれる。壊れる。】まもり侍へるとて 修理(しゆり)に及び一紙半銭【紙一枚と銭半銭の意から、ごくわづかのもののたとえ。多く仏家で寄進の額のわずかなことをいう場合に用いる。】をいはず十方だんな【「十方旦那」=諸所方々の檀家】の 心ざしをもとむ 世のわかきものども奉加(ほうが)【他の人々に加わって(神仏に)寄付すること。】にいりて その塔(たう)のうへにのぼりて結縁(けちえん)する事侍へり 五月朔日けふしもあまたこの塔にのほりつゝ 四方(よも)のけしきを見わたして何心もなかりし【何の考え、配慮もない】所に にはかに大なゐふり出して塔(たう)のゆすること事いふ はかりなく路盤(ろばん)へき〳〵として寶鐸(ほうちやく)【「ほうたく」に同じ。寺院の堂塔の四隅の軒などに吊るして飾りとする大きな鈴。】りん〳〵 とひゞきけるを只わかきものどもしたにありて うへなるものをおびやかさんとて塔(たう)をゆすると

現代語訳

【右丁】 八 八坂の塔の修造と塔の上で明かりをした人の事 八坂の塔は昔、後鳥羽院がまだ幼くいらっしゃった頃、何気なく「東寺の塔と八坂の塔を比べてみると、八坂の塔はまだ若々しいなあ」とおっしゃったとかで、右衛門の局の日記に記録されている。ある時この塔が傾いたのを、浄蔵貴所という聖が祈りによって直したという。それ以来、再び浄蔵貴所のような人も世に現れないので、この塔が傾いても祈りで直してくれる人もいなかった。そこで良い方法を考え出し、傾いた後ろの方に池を掘ったところ、自然と直った。傾きが 【左丁】 直ったのでその池を埋めたということだ。ところで近頃、八坂の塔の上部が損傷して守り続けているとして修理に及び、わずかな額でも構わず、諸方の檀那の志を求めている。世の若者たちが寄付に加わって、その塔の上に登って結縁することがある。 五月一日、今日もまた多くの人がこの塔に登り続け、四方の景色を見渡して何の心配もしていなかったところ、突然大地震が起こって塔の揺れることは言いようもなく、路盤がきしんで宝鐸がりんりんと響いたのを、下にいた若者たちが上にいる人を脅かそうとして塔を揺らしていると

英語訳

【Right page】 Eight: About the Repair of Yasaka Pagoda and the People Who Spent the Night on Top of the Pagoda Yasaka Pagoda dates back to when Emperor Go-Toba was still very young. It is said that he once casually remarked, "When comparing the pagoda of Toji Temple with Yasaka Pagoda, Yasaka Pagoda still looks quite youthful," which was recorded in the diary of the Court Lady Uemon. Once, when this pagoda had tilted, a holy man called Jozo Kiso straightened it through prayer. Since then, no one like Jozo Kiso has appeared in the world again, so when the pagoda tilted, there was no one to straighten it through prayer. They came up with a good method: they dug a pond behind the tilted side, and it naturally straightened itself. Once the tilt was 【Left page】 corrected, they filled in the pond. Recently, the upper part of Yasaka Pagoda has been damaged and needs protection, so repairs are underway. They are seeking donations from patrons everywhere, no matter how small the amount. Young people of the world join in making donations and climb to the top of the pagoda to form religious connections. On the first day of the fifth month, many people again climbed this pagoda, gazing out at the scenery in all four directions without a care in the world, when suddenly a great earthquake struck. The pagoda shook indescribably, the foundation creaked loudly, and the temple bells rang out. The young people below thought that