翻刻!地震・災害史料

コレクション: NDL地震・火山

娜二代鉢木 5巻 - 翻刻

娜二代鉢木 5巻 - ページ 26

ページ: 26

翻刻

【右頁 上】 かとりいかほのぬまへたづね来りあたりを見れば 木のゑだに両人の小そでかけ大小をそばに すてすてはき物あるを見てさては両人ふう ふのちぎりあさからず此いけへみを なけし物□らんと思ひならく のそこ迄もさまたげ せんとたちまち大じや となりいけへとび 入ければ 【右頁 左下】 天ち しん どう【天地振動】大かせ【大風】大あめ【大雨】 おひたゝしく【夥しく】すさ まし【凄まじ】けりしこと共也 いとじさへ此所は雨 の大といやいかづち のこんけんほか にでだななし 【左頁 上右】 古哥にいわく 雨ぐものたつといふなや 上野にありといふなる なるうみがだけ といふ哥の心も此ぬま の事なりとね川 のへんより此山まで 六里ありその山の上 に此いかほのぬま有 山がり【山狩】木こりおそれて にけ行 【左頁 上左】 やれ〳〵おつ かない 此しう ちは 入あい さくら【入相桜】の □だん めときたさてもすさまじいつらだもさ

現代語訳

【右頁 上】 香取姫は伊香保の沼へ尋ねて来て、あたりを見ると、木の枝に両人の小袖がかかり、大小をそばに捨て、履物があるのを見て、「さては両人は夫婦の契りが浅くなく、この池へ身を投げたのであろう」と思った。「冥土の底まで邪魔をしてやろう」と、たちまち大蛇となって池へ飛び込んだ。 【右頁 左下】 天地が震動し、大風が吹き、大雨が降って、おびただしく凄まじいことであった。この所は雨が激しく降り、雷の轟音が他に類を見ないほどであった。 【左頁 上右】 古歌に言うには、「雨雲の立つという名や上野にありという鳴海が嶽」という歌の心も、この沼のことである。利根川の辺からこの山まで六里あり、その山の上にこの伊香保の沼がある。山狩りや木こりたちは恐れて逃げ去った。 【左頁 上左】 「やれやれ、恐ろしい。この辺りは入相桜の段のようだ。それにしても凄まじい顔つきだ。」