翻刻!地震・災害史料

コレクション: NDL地震・火山

二日はなし地震亭念魚町々庵炎上 - 翻刻

二日はなし地震亭念魚町々庵炎上 - ページ 1

ページ: 1

翻刻

【タイトル】 二日はなし 地震亭念魚 町々亭炎上 【タイトル左脇】 ●将棋ずき ●吉原やけ ●太神宮神馬 【本文三段構成】 【第一段】 ●此あいだのぢしんずきにしやうぎの すきな人がふとゆきあいまして 〽トキニかく兵へさんさてこの間は けしからぬ事でしかし御ぶぢて おめでとうござります 〽イヤこれはばん吉さん御けがも なくてしかしカク飛車(ひしや)〳〵と しやうぎだをしはどうでごぜへ升 〽コレハ〳〵此そうどうの中で すきな道(みち)とてしやうぎでしやれるトハ ありがてへもしこれじやア会所(くわいしよ)も おあいだゝねま事に王将(わうしやう)でごぜへ升 〽なるほど往生(わうじやう)のしやれかへおもしれへ△【△:右半分が中黒】 【第二段】 △【△:右半分が中黒】それはそふとこのあいださる ものしりにきゝましたが このくらいなさわぎは 桂馬(けい)禾車(きやう)いらいないと ゆうことで厶り升 〽イヤそのかわりによのなかゞ ゆりなほつて金銀(きんぎん)のゆう づうがよくなります ときに妙(めう)ななりでどこへいきなさる 〽ナニサさるおやしきへ歩(ぶ)に やとわれてまいり升 〽ソレじやア金(きん)になり升しふ ●ときによしわらの 五丁町は大へんなさわぎだね 〽さようサあすこはつぶれた上に やけだからいゝぶんはねへ 〽わしはあのばん五十けんにあすんで いやしたがおそろしいしんどうサ 〽モシよしわらがしんどうなら むかふのくらのふるつた くらゐはアリヤアかむろて ごぜへやせう 【第三段】 ●トキニこんど いせの太神宮(だいじんぐう)様の しん馬(め)の毛(け)がのくら ずなくなつたそふだが 此あいだゑどのぢしんに 太神宮(だいしんぐう)様がその馬(うま)に のつてきてたいそふ 人をたすけた そうだが たすかつたものは 袂(たもと)にその神馬(じんめ)の毛(け)が 一本づゝあつたそふだ 〽おや〳〵そふかへわたしのおとつさんは このぢうのぢしんでつぶされて しんでおてらへほふむつて しまつたがもしやそのとき きてゐたきものゝたもとに 神馬(じんめ)の毛(け)がありやア しないかときものゝ袂(たもと)を たづねてみておや〳〵 あらそわれないものだ 毛(け)があつたよ 〽ドレみせなコリヤア 神馬(じんめ)の毛(け)じやアねへ 〽それじやアなんだへ 〽コレカこりやア鯰(なまづ)のひげだ

現代語訳

【タイトル】 二日話 地震亭念魚 町々亭炎上 【タイトル左脇】 ●将棋好き ●吉原焼け ●太神宮神馬 【本文三段構成】 【第一段】 ●この間の地震騒ぎに将棋の好きな人がふと行き会いまして 「時にかく兵衛さん、さてこの間はけしからぬ事で、しかし御無事でおめでとうございます」 「いやこれは番吉さん、お怪我もなくて、しかし角飛車(ひしゃ)々々と将棋だましはどうでございます」 「これは々々この騒動の中で好きな道とて将棋でしゃれるとはありがたい。もしこれじゃあ会所も相打ちだね。まことに王将でございます」 「なるほど往生の洒落かえ、面白い」 【第二段】 「それはそうとこの間、さる物知りに聞きましたが、このくらいな騒ぎは桂馬、香車以来ないということでございます」 「いやその代わりに世の中が揺り直って金銀の融通がよくなります。時に妙な格好でどこへいきなさる」 「なにさ、さるお屋敷へ歩に雇われてまいります」 「それじゃあ金になりましょう」 ●時に吉原の五丁町は大変な騒ぎだね 「そうですさ、あそこは潰れた上に焼けだからいい分はない」 「私はあの晩、五十軒に遊んでいましたが恐ろしい震動さ」 「もし吉原が震動なら、向こうの蔵の古った蔵位はアリャア禿でございましょう」 【第三段】 ●時に今度、伊勢の太神宮様の神馬の毛が残らずなくなったそうだが、この間江戸の地震に太神宮様がその馬に乗って来て大層人を助けたそうだが、助かったものは袂にその神馬の毛が一本ずつあったそうだ 「おやおやそうかえ。私のお父さんはこの度の地震で潰されて死んでお寺へ葬むってしまったが、もしやその時着ていた着物の袂に神馬の毛がありゃあしないかと、着物の袂を尋ねてみて、おやおや、あら争われないものだ、毛があったよ」 「どれ見せな。こりゃあ神馬の毛じゃあない」 「それじゃあなんだい」 「これか、こりゃあ鯰のひげだ」

英語訳

【Title】 Two Days' Tale Jishin-tei Nengyo Town House Fire 【Subtitle】 ●Shogi Enthusiast ●Yoshiwara Fire ●Great Shrine's Divine Horse 【Three-part Text】 【Part One】 ●During the recent earthquake commotion, shogi enthusiasts happened to meet: "Well now, Kakubei-san, that recent incident was terrible, but congratulations on your safety!" "Oh, Bankichi-san, you're uninjured too. But how about a game of shogi with rook and bishop flying about?" "My, my, to make shogi puns in the midst of this disaster over our beloved game is admirable. Well then, the game hall is also mutual destruction - truly like a king!" "Indeed, a pun on 'death' (ōjō) - how amusing!" 【Part Two】 "Speaking of which, I heard from a certain scholar that there hasn't been such commotion since the knight and lance pieces were invented." "Well, in exchange, the world will shake itself straight and gold and silver will circulate better. By the way, in that strange outfit, where are you going?" "Oh, I'm being hired as a pawn at a certain mansion." "Then you'll become gold!" ●Speaking of which, the five districts of Yoshiwara are in terrible chaos, aren't they? "Indeed, the place was both crushed and burned, so there's nothing good to say about it." "I was playing at Gojikken that night - what terrifying tremors!" "If Yoshiwara shook that much, even the old warehouses over there must be bald now!" 【Part Three】 ●Speaking of recent events, I heard that all the hair from the divine horse of the Great Shrine of Ise has disappeared. During the recent Edo earthquake, the deity of the Great Shrine came riding that horse and saved many people. Those who were saved apparently each found a single hair from that divine horse in their sleeves. "Oh my, is that so? My father was crushed and killed in this earthquake and buried at the temple. I wondered if there might be a divine horse hair in the sleeve of the kimono he was wearing then, so I searched through his kimono sleeves and - oh my! - undeniably, there was a hair!" "Let me see. This isn't a divine horse hair." "Then what is it?" "This? This is a catfish whisker."