翻刻
かまくらかめがやつといふ所に【鎌倉、亀ヶ谷という所に、】
松山【松山】
かげゆと【勘解由と】
いふ人あり【いう人あり。】
御ほふこふを【御奉公を】
たいせつに【大切に】
つとめしゆび【勤め、首尾】
よくいんきよの【よく、隠居の】
ねがいかなひ【願い叶い。】
ひとり【一人】
むすめの【娘の】
こいむこ【恋婿】
新之丞に【新之丞に、】
かとくを【家督を】
おふせ【仰】
つけ【付】
られこのうへもなく【られ、この上もなく】
よろこびよをゆるやかに【喜び、世を緩やかに】
くらししちりがはまの【暮らし、七里ヶ浜の】
とりたてのさかな【取り立ての魚】
びち〳〵するので【びちびち、するので、】
御酒を【御酒を】
あがりて【上がりて】
たのしみ【楽しみ】
給ふ【給う】
【下部】
明日わか【明日、若】
とのさま【殿様】
ごと【御登】
ぜう【城】
なさり【なさり】
ます【ます】
現代語訳
鎌倉の亀ヶ谷という所に、松山勘解由という人がいた。御奉公を大切に勤め、首尾よく隠居の願いが叶った。一人娘の恋人である新之丞に家督を譲り渡され、この上もなく喜んで、世を穏やかに暮らしていた。七里ヶ浜で取れたばかりの新鮮な魚がぴちぴちと跳ねているので、お酒を飲んで楽しんでいる。
【下部の台詞】
「明日、若殿様が登城なさいます」
英語訳
In a place called Kamegayatsu in Kamakura, there lived a man named Matsuyama Kageyu. He served his lord faithfully and successfully achieved his wish to retire. He passed on the family headship to Shinnosuke, who was his only daughter's beloved, and was overjoyed, living peacefully in the world. Fresh fish caught at Shichirigahama were jumping about vigorously, so he was enjoying himself with sake.
[Dialogue at the bottom]
"Tomorrow, the young master will go to the castle."