翻刻
浮(うか)ぶものあるを遽(にわか)に水(みづ)に飛入(とびい)り之(これ)を捕(とら)へんと
せばその物(もの)必(かなら)ず水(みづ)に促(せ)かれて先(さき)の方(かた)へゆき我(われ)
帰(かへ)れば亦水(またみづ)につれ我方(わがかた)へ来(く)るべし然(しか)るを静(しづか)に
水(みづ)を押(を)し分(わ)け之(これ)を掴(つか)まば容易(たやす)かるべし空気(くうき)の
動(うご)くも此(これ)と異(こと)なることなし元来(ぐはんらい)「ぽすぽる」とは
天地(てんち)の間(あいだ)に具(そな)はりたる六十八色(ろくじうやいろ)の物(もの)の一(ひと)つにて
生物(いきもの)に多(をほ)く草木抔(くさきなど)も多少此気(たせうこのき)を含(ふく)まざるは少(すくな)
し人(ひと)も此気(このき)あればこそ生命(いのち)を保(たも)ち得(う)るものな
るが死(し)して骨肉腐(ほねみくさ)れ土(つち)に返(かへ)るとき此気離(このきはな)れ水(すい)
素(そ)と云(い)ふ亦六十八色(またろくじうやいろ)の物(もの)の一(ひと)つと合(あ)ひ前(まへ)に云(い)へ
る燐化水素(りんくわすいそ)とはなるなり斯(かゝ)る理(ことはり)より墓所抔(はかしよなど)は
自然此気(しぜんこのき)も多(をほ)く遂(つい)に怨霊(をんりやう)の火抔(ひなど)と唱(とな)へ来(きた)りし
も種(たね)なき話(はなし)にはあらざれど元(も)と「ぽすぽる」の光(ひかり)
なれば蛍(ほたる)火(び)朽木(くちき)と異(こと)ならず何(なん)ぞ畏(をそ)るゝことの
あるべけん
天変(てんぺん)地異(ちい) 大尾(をはり)