翻刻
【右丁・上段】
へをきく。かりにもあしき
ことをきかず。さはがしからず
物におどろかぬやう ̄ニすれは
生るゝ子。ちゑふかく。無病(むびやう)
なるべし。五か月めに吉日
をえらひ。おびをすべし
おびはすゝしを八尺にして
四つにたみ。其男の左の
袖より。女の右の手へわた
すべし。是さだまりたる祝
義也。此帯をしそめて。後は
外のおびを取かへしまふべし
おびをして後男にまし
はる事。たびしけゝれは。生れ
子。ほうさうをもく。わづらむ
おほし。つゝしむべきこと也
【右丁・下段】
古今
いたづらに行てはきぬる物ゆへに見まくほしさにいざなはれつゝ
水の尾の御(ヲン)時成べし。大みやす ̄ン所も染殿の后也。五条の后とも
六十六
昔男津の国にしる所有けるに。兄おとゝ友だちひきゐて。難
波のかたにいきけり。渚を見れば船どものあるを見て
後撰
なにはづをけさこそみつの浦ごとにこれや此世を海わたる船
これをあはれかりて人々かへりにけり
六十七
昔男《振り仮名:せうえう|たのしみありく也》しに思ふとちかいつらねて。いづ【「み」脱落か】の国へ《振り仮名:きさ|二月也》らぎ計にい
きけり。かうちの国いこまの山をみれは。くもりみはれみ。立ゐる雲やま
ず。あしたよりくもりてひるはれたり。雪いとしろう。木の末に
ふりたる。それを見てかの行人の中に《振り仮名:ひとり|なり平也》よめる
きのふけふ雲の立まひ《振り仮名:かく|かくす也》ろふは花のはやしを《振り仮名:うし|ねたむ也》と成けり
六十八
昔。男いづみの国へいきけり。住吉の郡すみよしの里。住吉のはまを行
に。いと面白けれは。おりゐつゝゆく。ある人すみよしのはまとよめといふ
【左丁・上段】
うぶゆひく所
【挿絵】
【左丁・下段】《振り仮名:|》
雁なきて菊の花咲秋はあれと春のうみべにすみよしのはま
とよめりければ。《振り仮名:皆人々よま|此哥をかんじてやみたる也》ず成にけり
六十九
むかし。男有けり其おとこいせの国にかりの使にいきけるに。かの
いせの斎意成ける人のおや。つねの使より《振り仮名:此人|なり平也》よくいたはれといひ
やれりけれは。親のこと成けれはいと念頃にいたはりけり。あしたには
かりに出したてゝやる。夕さりは帰りつゝそこにごさせけり。かくて念
比にいたづきけり。《振り仮名:三日【諸本は「二日」】とい|なり平くだりて》ふ夜。男《振り仮名:われて|わりなく也》あはんといふ。《振り仮名:女もは|斎宮■同心也》たいと
あはじとも思へらず。されど人めしげれはえあはず。つかひざねとある人
なれは。遠くもやどさす。女のねやもちかく有けれは。女。人をしづめて
ねひとつはかりに。男のもとに来りけり。男はたねられざりけれは
《振り仮名:とのか|外の辺を也》たを見いだしてふせるに。月のおほろなるにちいさきわらは
をさきにたてゝ人たてり。男いとうれしくて。我ぬる所にゐで入て
。ねひとつよりうし三つまであるに。まだ何事もかたらはぬに帰り