翻刻
【右丁】
竹澤(たけさは)右京亮(うきやうのすけ)と共(とも)に謀(はか)り矢口(やくち)の渡(わたし)にて新田(につた)左兵衛佐(さひやうゑのすけ)義興(よしおき)を
亡(ほろほ)したりし江戸(えと)遠江守(とほ〳〵みのかみ)是(これ)なり《割書:其事(そのこと)は第(たい)二巻 矢口明神(やくちみやうしん)の|条下(てう)かに詳(つまひらか)なり》
雲松山(うんしようさん)泉龍寺(せんりうし) 氷川明神(ひかはみやうしん)より八町はかりを隔(へた)て西北(にしきた)の方 和泉(いつみ)
村(むら)にあり曹洞派(さうとうは)の禪刹(せんせつ)にて相州(さうしう)髙座(たかざ)の宝泉寺(はうせんし)に属(そく)せり
本尊(ほんそん)釋迦如来(しやかによらい)の坐像(ささう)は八寸 計(はかり)ありて脇士(けふし)には阿難(あなん)迦葉(かせふ)の
像(さう)を置(おき)たり《割書:丈七寸|はかり》脇壇(けふたん)に聖観音(しやうくわうおん)の像(さう)を安置(あんち)す良辨(りやうへん)僧都(そうつ)の
作(さく)なりと云 當寺(たうし)は良辨(りやうへん)僧都(そうつ)の草創(さう〳〵)にして往古(むかし)は法(ほつさう)華嚴(くゑこん)を
兼(かね)て大伽藍(おほからん)なりしとなり中興(ちやうこう)を銕叟(てつそう)瑞牛(すゐきう)和尚(おしやう)と号(かう)す相傳(あいつたふ)
孝謙(かうけん)天皇(てんわう)の御宇(きよう)天下(てんか)大(おほい)に旱魃(かんはつ)す依(よつ)て良辨(りやうへん)僧都(そうつ)請雨(あまこひ)の
法(はふ)を修(しゆ)せられしに奇特(きとく)ありて清泉(せいせん)湧出(ゆしゆつ)すと云 即(すなはち)門外(もんくわい)南(みなみ)の方に
有(あ)る霊泉(れいせん)是(これ)なり《割書:此地(このち)を和泉邑(いつみむら)と名(な)つくるも此(この)清泉(せいせん)によるとなり又(また)小田原(をたはら)|北条家(ほうてうけ)の分限帳(ふんけんちやう)に川村(かはむら)某(それかし)の所領(しよりやう)に江戸(えと)泉村(いつみむら)七 貫(くわん)文と》
《割書:ある地(ち)を|加(くは)へたり》
霊泉(れいせん)總門(そうもん)に幷(なら)ひて右の方にあり槻(つき)の樹(き)の根(ね)より湧出(ゆしゆつ)して泌(ひつ)
【左丁】
沸(ふつ)たり此(この)池水(ちすゐ)いかなる旱魃(かんはつ)にも枯(かる)る事なく此(この)近里(きんり)悉(こと〳〵)く耕(かう)
田(てん)の用水(ようすゐ)に引(ひく)といへり寺号(しかう)も此(この)靈泉(れいせん)に依(よつ)て名付(なつく)と見(み)えたり
《割書:池(いけ)の中島(なかしま)に蛇形(しやきやう)の弁天(へんてん)の像(さう)を安(あん)せし宮居(みやゐ)|あり此(この)靈像(れいさう)は良弁(りやうへん)僧都(そうつ)の作(さく)なりといふ》
經塚(きやうつか)《割書:寺(てら)より後(うしろ)の方(かた)用水堀(ようすゐほり)を越(こえ)て一丁あまり艮(うしとら)の方 畑(はた)の中(なか)にあり少(ちひさ)き岡(をか)の|上(うへ)に三圍(みめくり)はかりの老樹(らうしゆ)あり往古(そのかみ)良弁(りやうへん)僧都(そうつ)此所(このところ)に佛径(ふつきやう)を埋(うつ)め松(まつ)を植(うゑ)て》
《割書:印(しるし)とす此(この)樹下(しゆか)に古碑(こひ)六 枚(まい)あり一は上に梵字(ほんし)を刻(こく)し下に六字(ろくし)名号(みやうかう)を記(しる)し左右(さいう)に|明應(めいおう)六年巳正月十六日とあり又一は上に梵字(ほんし)を刻(こく)し下に阿舎梨(あしやり)良弁(りやうへん)と記(しる)し右(みき)に》
《割書:明應(めいおう)三年壬申六月十一日とあり又 左(ひたり)に毎(まい)自作(しさく)是念(ぜねん)以何令(いかれう)衆生(しゆしやう)得入(とくしゆ)無上(むしやう)道速(たうそく)成(しやう)|就(しゆ)佛身(ふつしん)とあり其余(そのよ)の四 枚(まい)は缼損(かけそん)して文字(もんし)讀得(よみえ)かたし》
松本山(しようほんさん)廣福寺(くわうふくし) 昔(むかし)は稲毛山(いなけさん)と号(かう)したりといふ菅村(すけむら)の内(うち)府中(ふちやう)往来(わうらい)の
道(みち)より右(みき)の方四町はかりにあり新義(しんき)の真言宗(しんこんしう)にして三ツ濱(はま)の
髙勝寺(かうしようし)に属(そく)す本尊(ほんそん)五智(こち)如来(によらい)は座像(ささう)九尺 計(はかり)あり開山(かいさん)は慈覚(しかく)
大師(たいし)中興(ちやうこう)は長辨(ちやうへん)阿闍梨(あしやり)と号(かうす)《割書:安貞(あんてい)元年丁亥|正月十日 化寂(けしやく)す》
観音堂(くわんおんたう)《割書:本堂(ほんたう)より後(うしろ)の山(やま)の上(うへ)にあり本尊(ほんそん)正観世音(しやうくわんせおん)の像(さう)五寸はかりありて胎(たい)|中(ちやう)に稲毛(いなけ)三郎 重成(しけなり)念持佛(ねんちふつ)の観音(くわんおん)の小 像(さう)を収(をさ)むるといへり此(この)堂中(たうちやう)》
《割書:重成(しけなり)の肖像(せうさう)ならひに重成(しけなり)以下(いか)の位牌(ゐはい)を置(をき)たり|》
稲毛三郎重成禪門法名道全《割書:名(な)の上(うへ)に丸(まる)の中(うち)に上羽蝶(あけはのてふ)の|下(した)に一文字の紋(もん)を畫(ゑかき)たり》