翻刻
心ある身にハ哀ぞしられけるかたる住居を家とおもへば
或君に二人の臣あるひとりハ《ルビ:賢|かしこ》人にて一人ハ《ルビ:佞|ねじけ》人
也然るに
《ルビ:佞人|ねじけ》ハ残りて《ルビ:賢人|かしこ》の方棟にうたれて死しけれハ
天ハ是か非歟と疑ふ諺も今更おもひあたる世の中
君に忠親に孝ある武士も黄なる泉に行ぞはかなき
《ルビ:賢人|かしこ》救ひもやらでいかなれハねぢけ心のなゐハうとまし
沢氏なる者なゐハ逃れしかども失火に家倉焼落
なゐふるを逃れ□□しと思ふ間に早燃出る煙うたてき
吉田何某梁を背負て一子の名を呼を相図に息絶たり
梁を背負ながらも子を思ふ親の心をしらぬなゐかな
宮沢氏の妻乳飲子を抱きながら棟に打れ死したり
乳飲子の乳房離さす其まゝに死出の旅路に行そはかなき
地震の夜森に凭る小鳥一時に飛さりければ
なゐふりて塒の鳥も歌なくか心ならずもさわく冬の夜
或人仕を辞して菩提の道に入けるが其庵へ人々来り候
誰々ハ死し某ハ怪我せしなど話を聞て