翻刻
端唄寝〆色糸(はうたねじめのいろいと)下の巻
通(かよ)ひ小町(こまち)
小町(こまち)おもへば照(て)る日(ひ)もくもるしいの少将(しやう〳〵)がなみだ雨(あめ)とはいま
専(もつは)ら世(よ)の中(なか)に通客達(つうかくたち)のいきがりてうたふはうたの文句(もんく)ながら
末(すゑ)の一句(いつく)のばゞじやへは色気(いろけ)のない行(ゆき)どまり外(ほか)になにとか言(い)
ひやうも有(あ)るべきにばゞじやへとは何事(なにごと)ぞや。酒(さけ)は燗(かん)肴(さかな)は気(き)
どり酌(しやく)はたぼちん猫(ねこ)ばゞア子供(こども)いやなりとのおきてをもはゞか
らぬ悪洒落(あくじやれ)の一言(いちごん)。成(な)らば雅言(がげん)に取(と)りなして文句(もんく)をいさゝか
かゆるともそつとは
なにかくるしかるべ
き抑(そも〳〵)此(この)小野(をの)の
小町(こまち)といふは出(で)
羽(は)の郡司(ぐんじ)小野(をの)
の良実(よしざね)が娘(むすめ)にて本朝(ほんてう)美人(びじん)の聞(きこ)えたかく和歌(わか)は衣通姫(そとほりひめ)の
流(なが)れをくみてその才(さい)古今(こゝん)にひいでたれば其色(そのいろ)にまよひ其才(そのさい)
をしたひて縁(えん)に因(ちな)みつてをももとめて言寄(いいひよ)るもの多(おほ)けれどおのれ
【絵の中】
花のくもりか遠山の
雲か月かはしら雪の
なかをそよ〳〵ふく
春風にうきね
さそふや
さゞなみの
こゝそかもめ着
みやこ鳥あふぎ
びやうしの
ざんざめく内や
ゆかしき内ぞゆかしき