東京学芸大学「学びと遊びの歴史」を翻刻!

コレクション: 学校教材発掘プロジェクト 6

甲冑着用備双六 - 翻刻

甲冑着用備双六 - ページ 1

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【欄外右辺】 甲冑着用備双六(かつちうちやくようそなへすごろく)    一壽齋芳員畵 【右下隅から時計回りに外から内へ・○にアラビア数字はマスの順番】 【①】 振出(ふりだ)し ㊀ 褌(ふんどし) ㊁ 襯衣(したぎ) ㊂ 衣帯(おび) ㊃ 小袴(こはかま) ㊄ 足袋(たび) ㊅ 脚半(きやはん) 【②】 褌 ふんどし ㊀ 〽なるほど〳〵 こうくびへかけれは おちるきづけへ なしだ しかしどこか ちつときうくつなやうだ 【③】 襯衣 したぎ ㊁ 〽ゆきがあんまり みぢッけへが これで いひかしら あせぢばんが もつて こいだ これでよし〳〵 【④】 衣帯 おび ㊂ 〽これもやつばり もめんにかぎる 〆あんばいが しごくめう〳〵 【⑤】 小袴 こばかま ㊃ あんまりかたく 〆てはせつねへ〳〵 〽はかまをはいたで すこくまがよくなつた これではちつといくさじみてきた 【⑥】 足袋 たび ㊄ 〽かはたびはいゝが 足がほてつて こまります もめんの さし たびが よさそうで こさります しかしつながはできあひにはあるめへねヱ 【⑦】 脚半 きやはん ㊅ 〽きやはんは すねあての 中はらに はくのだ これも ゆるいほうが あんばいよしだ かたいとあしか いたみいり升 【⑧】 草鞋 わらんじ 〽わらじは めうがゝ あさが いゝと おしへに まかせて はくものゝ やつばりわらが ごく上々そめをくひもに△ △すれはよし〳〵 【⑨】 腨当 すねあて 〽むすひ めは しつかり と しめ やうは ゆるく するがいひ コレサあんまり ゆるすぎてはいかぬ〳〵 【⑩】 佩楯 はいだて 〽はいたて とは しりの おもい やつ には てき ねへ ことだ へんじしても すぐにはたてねへやつサ 【⑪】 决拾 ゆがけ ゆがけは いづれ たてわく こざくら ちと まつかは に にて いやす しかし ほうさうなら ゆかけは上々 【⑫】 臂罩 こて 〽こて〳〵とは たんとあること こては さくわんの だうぐ▲ ▲これは からだへ こてへるゼヱ 【⑬】 脇曳 わきびき 〽れんしやくで せおふたやうだ おもくろくも ねへ しやれだ 【⑭】 胴丸 どうまる 〽きなれ ないと むづか しい ものだ いそぎの とき には どう まる ものか 【⑮】 表帯 うはおび 〽うはおびを しめて やう〳〵 かたまつた これからまだ〳〵 いくいろもあるいそぐ ときにはまにあはねへ 【⑯】 肩罩 そで 〽そでじころを つけねへうちは ぞうべう じみて きが きか ねへこれでよし〳〵 【⑰】 帯両刀 りやうたうをたいす 〽これで しつかり きまり ました 〽なるほどたいとう きまりがいゝ〳〵 【⑱】 喉輪 のどわ 「のどはゝよだれかけ とまぎらはしいが りくぐのうち ならしかたが ねへ かけろ〳〵 【⑲】 纏顱巻 はちまきをまとふ 〽はち まきを あんまり かたく すると かへつてづつう はちまちた 【⑳】 蒙頬当 ほうあてをかぶる 〽しやんと まつすぐに かぶらないと ほうあて ちがひだ 【㉑】 戴頭盔 かぶとをいたゞく 〽かつてかぶとの をゝしめろだが まづまへいわいに 一ッしめませう△ △しやん〳〵〳〵 御めてたう厶リ升【注】 【㉒】 背旗 さしもの 〽さしものたけき ものゝふがト しやれたら どうたろう 【㉓】 挿鎗挟 やりばさみをさす 〽やり〳〵 ごくろうト いはれ そうだ 【㉔】 楯板 たてのいた 〽のぞきは 四文だ おすな 〳〵 【㉕】 竹束 たけたば 〽七月六日に うりのこ つたやうだ チトきま りが わるい 【㉖】 銕炮 てつばう 〽てつはうはこの すごろくと おなしこと きつとあたると 人のいふらん 〽なんといゝうたゞろう 【㉗】 一番鎗 いちばんやり 〽ちかごろ 一ばん やりも せんざいばで つかいますから おほきに やすッ ぼく なり やした 【㉘】 母衣 ほろ 〽ほろを ふくら がそう とおも つて かぜに む か ひ 一生けんめい かけだしたら ついてきぢんをいきすぎました めんぼく ない〳〵 しなび まし た 【㉙】 狼煙 のろし 【㉚】 一番乗 いちばんのり 〽うぢ川のせんぢん さゝきの四郎 たかつなト なのりたく なるやつさ ついおのれの なをわす れて しまつた なんとか いつたつけ 【㉛】 弓箭 ゆみや 【㉜】 熊手 くまで 〽よく ばつて ゐるやうだが かきこむには いゝだうぐだ 【㉝】 一騎 いつき 【㉞】 長刀 なぎなた 〽あぶねへぞ〳〵 よるな〳〵 さわると きれるぞ ありや〳〵〳〵 【㉟】 首帳 くびちやう 〽まことひまで こまります めでたい〳〵 ちを ぬら ず し て いくさは かち〳〵ぢき まくがしまつたはヱ 【㊱】 軍師 ぐんし 〽こうしてゐる所は うらないしやの やうたか これでも こんどは たれが 上ル このつぎは たれが上リ といふことは そらんじて おりますは 【㊲】 革鎧 かはぐそく 〽かはぐそくは きがきか ねへやうだが きこなした所が いゝからかるいは〳〵 かるきみにこそ◑ ◑たのみは あれと 古かにも あり やす 【㊳】 大鎧 おほよろゐ 〽大よろゐ とはチトおもひ つきがわかい ヤレ〳〵おもい〳〵 【㊴】 駅路鈴 えきろのすゞ 〽たかまが はらに かみとゞ まり ますトいふ やうだ 【㊵】 軍配 くんばい にゥしつるかめ〳〵 ひがし宝来山〳〵 ョ〽のこつた 〳〵〳〵 【㊶】 陣羽織 ぢんばおり 【㊷】 旄配 ざいはい 〽かゝれ 〳〵 ありやァ 〳〵〳〵ト いへ〳〵 【㊸】 上り 勝(かち) 軍(いくさ) 帰(き) 陣(ぢん) 一ッ あまれは さいはい  かへる 二ッ あまれは ぢんはおり かへる 三ッ あまれは くんばい  かへる 四ッ あまれは ゑきろ   かへる 五ッ あまれは 大よろゐ  かへる 【欄外左辺】【蔵書印:東京学芸大学蔵書】    芝神明前 丸屋甚八梓 【注  「厶リ升」の読みは「ござります」】

現代語訳

【欄外右辺】 甲冑着用備双六(かっちゅうちゃくようそなえすごろく)   一寿斎芳員画 【右下隅から時計回りに外から内へ・○にアラビア数字はマスの順番】 【①】 振り出し ㊀ 褌(ふんどし) ㊁ 下着(したぎ) ㊂ 帯(おび) ㊃ 小袴(こはかま) ㊄ 足袋(たび) ㊅ 脚絆(きゃはん) 【②】 褌 ふんどし ㊀ 「なるほどなるほど 首にかけると 落ちる気遣いは ない しかしどこか 少し窮屈なようだ」 【③】 下着 したぎ ㊁ 「袖があまりに 短いが これで いいだろうか 汗取りには 持って 来い これで良し良し」 【④】 帯 おび ㊂ 「これもやはり 木綿に限る 締め具合が すごく良い」 【⑤】 小袴 こはかま ㊃ 「あまり固く 締めては苦しい 袴を履いて すごく格好良くなった これでは少し戦らしくなってきた」 【⑥】 足袋 たび ㊄ 「革足袋は良いが 足が火照って 困ります 木綿の 刺子 足袋が 良さそうで ございます しかし綱は出来合いには有るまいね」 【⑦】 脚絆 きゃはん ㊅ 「脚絆は すね当ての 中腹に 履くのだ これも 緩い方が 具合良い 固いと足が 痛み入る」 【⑧】 草鞋 わらじ 「草鞋は 編み方が 朝が 良いと 教えに 任せて 履くものの やはり藁が 極上々、染めを紐に すれば良し良し」 【⑨】 脛当 すねあて 「結び 目は しっかり と 締め 様は 緩く するが良い これは余りに 緩すぎてはいけない」 【⑩】 佩楯 はいだて 「佩楯 とは 尻の 重い 奴 には 敵 わない ことだ 変事しても すぐには立てない奴さ」 【⑪】 弓懸 ゆがけ 「弓懸は いずれ 縦割 小桜、 ちと 真革 に にて 癒す しかし 法相なら 弓懸は上々」 【⑫】 小手 こて 「小手小手とは 沢山あること 小手は 作腕の 道具 これは 体へ 小手入るぜ」 【⑬】 脇引 わきびき 「蓮尺で 背負うようだ 重くろくも ない 洒落だ」 【⑭】 胴丸 どうまる 「着慣れ ないと 難しい ものだ 急ぎの 時 には どう まる ものか」 【⑮】 上帯 うわおび 「上帯を 締めて やっと 固まった これからまだまだ いく色もある急ぐ 時には間に合わない」 【⑯】 袖 そで 「袖所を 付けないうちは 雑兵 らしくて 気が 利か ないこれで良し良し」 【⑰】 帯両刀 りょうとうをたいす 「これで しっかり 決まり ました なるほど大刀 決まりが良い」 【⑱】 喉輪 のどわ 「喉輪は涎掛け と紛らわしいが 陸軍のうち なら仕方が ない 掛けろ掛けろ」 【⑲】 鉢巻を纏う はちまきをまとう 「鉢 巻を 余りに 固く すると かえって頭痛 鉢巻だ」 【⑳】 頬当を被る ほうあてをかぶる 「しゃんと 真っ直ぐに 被らないと 頬当て 違いだ」 【㉑】 兜を戴く かぶとをいただく 「勝って兜の 緒を締めろだが まず前祝いに 一つ締めましょう しゃんしゃんしゃん お目出とうございます」 【㉒】 指物 さしもの 「指物たけき もののふが 洒落たら どうだろう」 【㉓】 槍挟を挿す やりばさみをさす 「槍槍 ご苦労と 言われ そうだ」 【㉔】 盾の板 たてのいた 「覗きは 四文だ 押すな 押すな」 【㉕】 竹束 たけたば 「七月六日に 売り残 ったようだ ちと決まり が 悪い」 【㉖】 鉄砲 てっぽう 「鉄砲はこの 双六と 同じこと きっと当たると 人の言うだろう 何と良い歌だろう」 【㉗】 一番槍 いちばんやり 「近頃 一番 槍も 銭湯場で 使いますから 大いに 安っ ぽく なり ました」 【㉘】 母衣 ほろ 「母衣を 膨らま せようと 思って 風に 向 かい 一生懸命 駆け出したら つい陣地を行き過ぎました 面目 ない 萎び ました」 【㉙】 狼煙 のろし 【㉚】 一番乗 いちばんのり 「宇治川の先陣 佐々木の四郎 高綱と 名乗りたく なる奴さ つい己の 名を忘 れて しまった 何と 言ったっけ」 【㉛】 弓矢 ゆみや 【㉜】 熊手 くまで 「良く 獲って いるようだが 掻き込むには 良い道具だ」 【㉝】 一騎 いっき 【㉞】 長刀 なぎなた 「危ないぞ危ないぞ 寄るな寄るな 触ると 切れるぞ ありゃりゃりゃ」 【㉟】 首帳 くびちょう 「真に暇で 困ります 目出たい 血を 濡ら ず し て 戦は 勝ち、すぐに 幕が仕舞ったは」 【㊱】 軍師 ぐんし 「こうしている所は 占い師の ようだが これでも 今度は 誰が 上がり この次は 誰が上がり ということは そらんじて おります」 【㊲】 革具足 かわぐそく 「革具足は 気が利か ないようだが 着こなした所が 良いから軽い 軽きにみこそ 頼みは あれと 古歌にも あり ます」 【㊳】 大鎧 おおよろい 「大鎧 とはちと重い 付きが悪い やれやれ重い重い」 【㊴】 駅路の鈴 えきろのすず 「高天が 原に 神留 まり ますという ようだ」 【㊵】 軍配 ぐんばい 「にゅう鶴亀 東宝来山 よ、残った 残った」 【㊶】 陣羽織 じんばおり 【㊷】 采配 さいはい 「掛かれ 掛かれ ありゃあ と 言え言え」 【㊸】 上がり 勝(かち) 軍(いくさ) 帰(き) 陣(じん) 一つ 余れば 采配  帰る 二つ 余れば 陣羽織 帰る 三つ 余れば 軍配  帰る 四つ 余れば 駅路  帰る 五つ 余れば 大鎧  帰る 【欄外左辺】【蔵書印:東京学芸大学蔵書】    芝神明前 丸屋甚八板

英語訳

【Right margin】 Armor Donning Preparation Sugoroku (Board Game)   Painted by Ichijusai Yoshikazu 【From bottom right corner clockwise, outside to inside・○ with Arabic numerals indicate square order】 【①】 Starting point ㊀ Loincloth (fundoshi) ㊁ Undergarment (shitagi) ㊂ Sash (obi) ㊃ Short hakama (kohakama) ㊄ Tabi socks (tabi) ㊅ Leg guards (kyahan) 【②-㊸】 [Each square contains descriptions of armor pieces and equipment with humorous commentary about putting them on, progressing through the complete process of arming a samurai warrior, from basic undergarments to full battle gear] The game progresses through: loincloth, undergarments, sash, short hakama, tabi socks, leg guards, straw sandals, shin guards, thigh guards, archery glove, gauntlets, side protectors, chest armor, upper sash, sleeves, wearing both swords, throat guard, headband, cheek guards, helmet, back banner, spear holder, shield board, bamboo bundles, firearms, first spear, war cape, signal fires, first charge, bow and arrows, rake, single horseman, naginata, head record book, military strategist, leather armor, great armor, station bell, war fan, battle surcoat, commander's baton. 【㊸】 Finish Victory (kachi) Battle (ikusa) Return (ki) Camp (jin) One extra return to commander's baton Two extra return to battle surcoat Three extra return to war fan Four extra return to station bell Five extra return to great armor 【Left margin】【Library stamp: Tokyo Gakugei University Collection】   Shibashinmei-mae, Maruya Jinpachi, publisher