翻刻
武江震災記略巻之四
以下九條は渡辺/魯(ロ)/庵(アン)めしい【「召しの」では】筆記を借りてその儘にうつ
せしなり
○高砂町に木匠吉五郎と云ふものあり今年三ツになれる男子あ
りけるか此程かしらにかさ【瘡=できもの、はれもの】いてきてなやめりしかはかの母年頃念
しける下総国成田の山なる不動尊を祈りてかしこより出し護符
もて其かさをなでゝをりけるに彼児のいへらくこよひ大なるないゆ
りて此家潰れぬへけれはとく逃給へと吉五郎是を聞つけさる怪
しき事いはすととくいねよかしといへと強に再三度この事をいふ
にそあやしく思ひて聊心を用いてやり戸なとくつろけいねふり
現代語訳
武江震災記略巻之四
以下九条は渡辺魯庵の筆記を借りてそのまま写したものである
○高砂町に大工の吉五郎という者がいて、今年三歳になる男の子がいた。この頃その子の頭にできものができて苦しんでいたので、母親が長年信仰していた下総国成田山の不動尊に祈願して、そこから出された護符でそのできものを撫でていた。するとその子供が言うことには「今夜大きな地震が起きてこの家は潰れてしまうから、早く逃げてください」と。吉五郎はこれを聞いても「変なことを言うな、早く寝なさい」と言ったが、子供が強く再三この事を言うので、不思議に思って少し注意を払い、戸などを緩めて寝についた。