翻刻
倒れ鳴聲天へも通ずへし我々四人は既に倒れんとして梅屋町
の四ツ辻迄命を限りに走りつきぬれば乾の角の家南北之庇大道へ
おつる巽之角之家も崩るゝ音はたとふるに物なし天地一円ニ黒
煙りたちしさまに生たる心地なし四人壱所にからまり居て一心に大神
宮を祈るのみあらは念仏を唱ふる老翁あれば絶入べき聲して題目
をいふ老婆もありしばらくして震動もしつまりぬれば馬荷心
えなく半町ばかり引かへしみれば惣作東平の荷物は新町一丁
目の石橋之辺に荷鞍とも捨置て馬はいづちへ行くや見へず予
が荷物を着たる馬は是も荷をうちかへし裸馬をひきたて逃帰
らんとする處へ行あひしゆへ町中にてハ心許なく是然を辺の人家
近き處迄つけ参るべしといへども馬士のいへるは荷物處か我命
と馬が大切也御自分達荷物に気をつけられよといひ捨て荷鞍も捨
おき伝馬町之方さして飛か如に逃帰りぬ磯田の荷物は新町一丁目
と二丁目との間にて馬倒れぬれば馬士も驚て猶豫する所へかけつけ磯
田いへるは外の荷物は近邊の畑中まで附て立逃たり是然此荷物も程
よき所まで附て立のくべしと漸に偽て荷物を附させ近邊の野まで
出るよしいひ捨て馬と同時に梅屋町の横町さして走りゆく荷着所
を尋ぬる間もなく我々三人は所々に散乱せし三駄之荷物を一所
に集め今にもあたりの家潰れなば小楯にせんと荷物の中へ三人
かじみ居るうちにも五六度も震動す所詮江尻迄のこしたて六ケ
處三駄の荷なれバ容易に運び處もなく今夜ハ大道にて
夜をあかす覚悟にて馬士の安部川にて求めし【右に土】大根を捨行し