翻刻
如きどろ〳〵響くとひとしく大地震すこはいかにと衆人驚く
程こそあれ家倉高塀器物之崩れ破る音さらにいふ計りなし
逃んとすれど目くるめきて自由ならずほう〳〵家を出けるに
津波打来りて当地ハ徳善町より北の田中赤岡ハ西濱並松之本
吉原ハ庄家之門迠に及び又川尻之波ハ赤岡神輿休之ほとりまで
にいたり古川堤夜須堤も押切られて夜須の町家など過半流
失すかくて人々は老を扶け幼を携ヘ泣叫ひツヽ王子須留田又ハ
平井大龍寺の山へと逃登りて命助かりぬ此時国中之官舎民屋
多く転倒し就中高智下町幡多中村ともに失火ありて一円焼
亡し凡そ怪我横死何百人といふ事なし幸甚なるかな此地ハ神祇󠄀
之加護によりて一人之怪我もなく彼山〻に己家をかまへ日を経るに 【己家:こや】
随ひて震もいさゝか穏に成しかば恵ある大御代之忝を悦ツヽ
皆己が家に帰りきぬ抑宝永四年の大変ハ今を距ること百四
十八年になりぬれば又かゝる年数には必ず変事の出こんなど
いふ人もありぬめ【誤記ヵ】ど世変はいつあらん事予めしりかたしされと常
に兔あらん時ハ角と用心せば今其変にあひても狼狽せさるべし
宝永の変を昔はなしの如く思ひし油断の患なからしめんがた
めことのよしをほゞゑりて此社と共に動きなく萬歳の後に伝
へんとふるひおこしたるは里人の【かヵ】誠心のめでたき限りにそありける
千規たま〳〵高見の官舎に祇役して倶に彼変事に逢たれば其
よし書てよと人〻の乞ふにまかせてかくハ記し侍りぬ 穴賢
徳永千規 誌