翻刻
【上段】
《割書:風俗画報臨時増|刊第百二十号 》海嘯被害録下編
○雑説
●地震津浪に就き地質学上の考説 (続)
巨智部忠承稿
以上列記する所の第十六項以下第二十三項に到る八様の源因説
其中十九、二十三は帰する所一なれば都て七項中余が大に賛成
を表するは二十一、二十二及第十五項池上技手の海嘯談中の数
節と為す而して地学上の見解に依て源因の存する所を論ぜんと
するに先づ三陸地方及其海底の地質構造如何を知るにあらざれ
ば正鵠を得る能はず由て左に地質の構造を略述せんとす
地質調査の成績に依て考定したる所に由れは北上山系即ち北上
川以東に錘子形を画する山地は三陸の最古地盤を為す所にして
陸前仙台近傍を中間に介して南の方阿武隈山系と同一の地文を
画けり阿武隈山系は常陸の久慈川磐城岩代の阿武隈川を堺し大
平洋に連り又南北蜿蜒たる山列の惣称にして其地質の構造も亦
南北の山系に同一の状態を現す乃ち以上二大川 (北上川阿武隈
川)は実に新古地質の分界を決流し其沿路に於て一条の凹谿を
刻み (之を地質学上縦谿と云ふ)自から地勢の趨向を標示し川の東
西に崛起する山容の異様なるが如く其之を構成する所の地質も
亦全く殊別なるものにしては新成にして火山質に富み東は旧成
にして火山質は稀に見るのみ火成岩及ひ古代の水成層岩より組
成せられ片麻岩層を最底として結晶片岩古生層岩中古層岩等の
累層花崗岩閃緑岩等の火成岩地の間に起伏し火成岩は中古代の
結成に係るものありとするも北上山系の地盤が噴出性の熔岩の
為に刺衝せられて多少の地変を生じたるは西部の山地に於ける
【下段】
火山活動の変異に於けるよりも杳かに前代にありしものにして
従て近来慣用の熟語と成れる所謂噴火の作用には極めて縁遠き
土地柄なり蓋し間接には其余勢に感じたらんこと彼の八甲田、
岩鷲駒ヶ嶽より蔵王に連なる噴火山脈の其西方に駢立せるに由
り推察せらる而して地球の縮小する結果として地殻自然の起伏
屈曲の大勢は火山岩地方水成岩地方の論なく平等に其威力を逞
ましくするか故に故原田博士が北上山系の海岸は土地陥入の跡
ありと論じたるも即ち此大勢に拠れる微証なりとす今参照とし
て原田博士の高説を左に抄述せん
前略此屈曲甚たしき北上山系の東面は如何なる固有の性質を帯ぶるものなるや
の問に答へんとす爰に種々の事情の考ふべきものあり第一此山系を阿武隈山系
と比較せば第三紀層の絶無なるに心付くべし第二此海岸に於ては到る処絶て昔
時汀線の著しき痕跡なし第三此険しき沿岸にある無数の湾澳は一部分深く内地
に切り込み恰も谿壑の状を為す若し雄勝或は女川湾に航入せば海水は昔時の谿
間の下部を満たすものたるの感を起すならん此事実と海岸の状態絶壁峭立の状
を成すを見れは此辺は一般に汀線の隆昂 (即ち土地陥入)の地にして云々
是に依て之を観れば北上山地は地学上既に歴然として土地の降
下したる痕を止むるものにして其降下したるは地辷の結果と見
做すを妥当となすべし何となれば陥落地震の際に発作する地盤
の降落は其区域広潤ならざる火山地若くは第三紀層の如き新成
地層の地に於てするものにして土地降下の結果に於ては地辷に
由れるものと陥落地震に依れるものと均しく在来の位置より地
面の降落したるには相違なきも其源因に於ては全く其起点を異
にす則ち簡単に其殊別なる事を次に摘示せん
爰に地震と陥落との説明を為すに読者をして容易に之を了解せ
しめんが為めに左に数箇の図を掲ぐ図中第一第二は造山力に由
て生じたる地体の異動にして第一図は六箇の劈裂線ありて地層
を断裁し其断面の傾斜は中央部より左右に背斜し此背斜の方向