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【右頁上段】
に左右の両翼を成せる各箇の切り離されたる地が辷り落ちたる
ものにして第二図は八箇の劈裂線あり中央に向斜し中心に楔子
形の地を生じ前者に反して中央部の各箇の地体か左右の両翼を
離れて辷り落ちたるを見るべし是れ断層一各地辷の標式の一二
にして地震の源因を茲に発作するものとす
第三図以下の図は凹陥沈落せる土地の形勢を示すものにして陥
落の地震の中心此処に発動し其震動の波及は中心より圏線に由
りて周囲の地に感ぜらるゝこと猶ほ池中に石を投じ其中心より
震波の動揺すると同一の理に帰すと知るべし故に此般の地震に
は中心点なるものあれども地辷地震は線路に沿ひ発動するもの
なれば中心点なるものなし下に述る十和田湖の如きは実に第六
図に示せる標式に該当する凹没の痕を存すと故原田博士は説か
れたり
地辷 地辷とは地皮に生じたる裂面に於て地体の転位するの
謂なり抑も地皮の収縮は地球体
の造山力に由て自然に地層の湾
屈皺起を生じ其屈折するや多少
の劈裂線は圧力に直角を為して
地皮中に成生し而して此収縮の
地動力は恒常依然として無休の
【図】 運動を為しつゝあるを以て斯く
裂罅を生じたる地の殻中の脆弱
なる部分は忽ち之れか圧排を支
ゆる能はさる処に於て裂面の向
方直立にして第二図の左方の如
くなるものも又は方向に傾斜あ
りて楔子を上下より組み合せた
【右頁下段】
るが如き第一図及
第二図に示すもの
も或は押し上げら
れ或は押し下げら
【図】 るゝことありと知
るべし斯の如く劈
裂を生したる他の
一部が各箇に地平
線の上下に昇降す
るを地辷とは謂ふなり我邦に於ける大地震の多数は此地辷の余
勢より発するものにして濃尾大地震の源因は実に此般地辷に帰
することを小藤博士は詳に之を説明し大に泰西諸大家の賛称を
得られたり斯の如き地辷は之を英語にFault若くはDislocation
と号せり即ち位置の変転する義にして地学上之を断層と訳す
然るに先年奈良、和歌山、徳島、兵庫の各地に大雨の後山の一部
辷り落ちて其処より多量の地水を吐き出し谿谷に押し来りて村
落を圧し多数の生命財産を損したることあり俗に之を山抜と謂
ふ又東京付近の地に於て府内道路用の砂利を採掘する場所あり
通例砂利層は粘土砂等の間に介在するを以て之を採掘するに充
分の注意を為さゞれは往々崖足を堀り穿つこと深きに達すれば
上部の地層は遂に其自重を支ゆる能はざるに到りて俄然として
墜落することあり又河川洪水の際決流の為めに其堤防又は岸崖の
下部を削り去らるゝも亦之れは同様の現象を見ることあり
以上山抜以下三件は又地辷の一にして造山力の結果より生ずる
ものとは大に性質に於て異なりて其区域も亦一帯の地に連発す
るの外は大ならざるを常とす這般の地変を英語にLaud-Slipと謂
ふ即ち地辷の義なり
【左頁上段】
此地辷は小区域に発作するが故に地震動を興すの勢力なきもの
ゝ如しど雖ども実際に於ては大震動を生ずることあり彼の希臘国
の南部コリンツ湾内に於て屡々発作したる水中崖懸の崩潰落下
するの場合の如きは湾を囲繞する部落に於て必ず大小の震災あ
り此湾は弓形の狭小なる水域を有し長さ三十哩幅二哩乃至十三
哩にして中央部の水深百尋以上五百尋を示し湾底の傾斜は随て
急峻なれば懸崖の所多しと知らる此崖足の一部地水及ひ水の化
学的作用に依り漸次融脱せられ其上盤水中に突出し後遂に挫折
して隤頽落下するに到る此際地上及湾内に震動を生し一千八百
八十八年九月の地震には数箇の町村を破壊し海水混濁し海底電
信線は転墜したる岩塊の下に埋められニ百尋の海底に於て全く
切断せられたることあり此現象は同地にては数回の経験に由て其
原因を究めたるものなりと云ふ以上陳へたる如く地辷は一様の
原因より発作するものにあらざれば地震の源因を説くに単に地
辷と称したりとも猶ほ之を以て其性質と状態を悉したるものと
為すべからず故に三陸地震の原因に就ても容易に之れか断案を
下す能はざるものと知るべし
次に陥落地震なるものを説明せん
地体の一部其周囲の連絡を断て俄然として凹陥するに際し其四
周の地に地震を発すること之を陥落地震と云ふ而して此地変の
発作するは火山地方若くは第三紀層の如き軽鬆の地層より成れ
る地方に多し本邦に在りて土塊凹陥の例証中火山地方に属する
ものゝ最も顕著なるは陸中国和賀郡十和田湖と為す北海道猶ほ
之れに類するものあらん又軽鬆の地層を有する地方に在りては
遠州浜名湖の陥落是なり此二者共に其発作の当時に在りては地
震を生じたらんことは論を俟たず之を英語にSubsidence of land
と謂ふ土地陥落の義なり
【左頁下段】
火山地方にありて土地の陥落するは其火山の活動しつゝある当
時若くは爾後に於て生することあり此陥落を為すの理解を如何
と言ふに第一火山は其火口より噴出したる物質を堆積して宏大
の嵩に達するときは其舗地の地体は之を蓋覆するところの重量
を支持し得ざるに至り其地の陥落するは当然ならん第二火山は
其噴火孔に由りて地中より山嶽を成生するに足る程の洪量物質
を吐き出すを以て地中自から大空隙を生すへけれは地上の堆積
物は其重量に耐へす沈降するの理あり試に看よ富士、鳥海、開聞
の如き標準的噴火山にして其側面の傾斜に美麗なる弧形を描き
出せるもの是れ其山体の陥下したる結果なることを
第三紀層の如き新成なる水成岩より構成せらるゝ地質の地にし
て火山に関係なき地に発作する陥落地震は欧米大陸に於て其例
多しと云ふ元来此地層は砂、粘土、砂利、石灰等の水底に沈殿堆
積し層累を布き列ねたる水底の地盤なり斯の如き地盤は造山力
若くは他の地動力の為に隆起して今陸地を形成するとは雖も其
之を掀揚したる地力の衰耗減退するか或は同地温線の沈下する
に従て及ひ自重に由て各分子の凝集緻密と為るに依て地層全体
の収縮を醸し此に劈裂の層を生し終に地盤陥落の起因を為す是
亦其地方に地震を発動す即ち火山に因縁なき陥落地震是なり
新聞紙上に現はれたる三陸地方地震に関する原因説は一にして
止まずと雖も陸地々質の構造、陸地と海底との関係、海底の形
勢、海底の地質 (仮想的)、震動区域、発震時、井水混濁に由る前
兆、洪浪の襲来、洪波の大さ、洪浪の波及等の如き此地妖に伴ひ
顕れ来れる処の諸般の事実を参量するときは其原因たるや自地震
に在ること明瞭なるべし而して地震の種類も亦一にして足らざ
れは何種の地震は能く此現象を発生したる原因として適合する
やを案定すること必要なり火山力に由て生ずる海底の隆起若く