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コレクション: STAGE7

風俗畫報臨時増刊第百二十八號 洪水被害録(下) - 翻刻

風俗畫報臨時増刊第百二十八號 洪水被害録(下) - ページ 17

ページ: 17

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【上段】 被害(ひがい)の模様(もやう)  如何に暴風雨(ばうふうゝ)なればとて湊川堤防(みなとがあていばう)の决潰せんな どゝは市民(しみん)の夢想だもせざりし処尤も今(いま)より三十 年前(ねんぜん)一たび决 潰せし事ありと雖も当時(たうじ)は神戸開港前後(かうべかいこうぜんご)にして人家素より多か らず従(したがつ)て被害(ひがい)の度も未だ甚だしからずして爾来今日(じらいこんにち)まで経歴(けいれき)す る所によてば仮令如何(たとひいか)なる暴風出水(ばうふうしゅつすゐ)ありと雖も湊川は六七尺の 深さに達(っつ)せざるが例なれば卅日の如きも暴風(ばうう)ありとするも亦前(またぜん) 日(じつ)の如けんのみと人々 孰(いづ)れも不安(ふあん)の裡にも幾分の安心を懐(いだ)きつ ゝ戸外に潜(ひそ)みありしに事は意外(いぐわい)に出でゝ終(つひ)に今回の如き参事(さんじ)を 見るに至りしが何様水勢激烈(なにさますゐぜいげきれつ)にして素破(すは)と云ふ間に水は早くも 一面に侵入(しんにふ)し驚き騒ぎて諸道具等(しよだうぐ)を取片付くる暇(ひま)なく二 階(かい)なき ものは僅に身(み)を以て逃るゝを責(せ)めての僥倖(ぎやうかう)とし二階若くは三階 あるものは逸早(いちはや)く階上に昇(のぼ)り尚ほ不安心(ふあんしん)と思はるゝものは家根(やね) 板(いた)を剥ぎて家根の上に出で救(すくひ)を他に求むるより外(ほか)なく阿悲叫喚(あひきうかん) の声は天地(てんち)に響き轟々(がう〴〵)たる水声に和して惨憺(さんたん)云ふべからず斯る うちに根太石は次第(しだい)に動きて柱(はしら)の折るゝ音(をと)家屋の倒るゝ音(をと)遠近 に聞えて一入物凄(ひとしほものすご)ぐ夜は暗し雨は尚ほ激(はげ)し他を救はんとすれど も己(おの)れの一 身(しん)だも危き折とて心(こゝろ)のみ焦りて中々(なか〳〵)他に及ばず終(つひ)に は可惜生命(あたらせいめい)を失ひ返らぬ旅に赴しもの少なからざりき是に至て 思へば其珍寶(そのちんはう)を流し美服(ぶふく)を失ふ如きは抑々(そも〳〵)末なり 警官の尽力(じんりよく)    最初堤防の決潰(けつくわい)を発見したるは松井兵庫縣(まつゐへうごけん) 巡査部長にして氏(し)は之を発見(はつけん)するや直に電話(でんわ)を以て兵庫縣警察 部に急報(きうはう)したり是に於て警部長(けいぶてう)は直に神戸兵庫戸場の三 警察署(けいさつしよ) 員(ゐん)を非常招集し孰(いづ)れも草鞋掛けにて現場(げんば)に駈け付け一方には水 防の警鐘(けいせう)を打ち鳴らして急(きう)を四方に告げければ消防夫等(せうばうふとう)も逸早 く集まりたれども何分夜中(なにぶんやちう)の事と云ひ一 時水勢猛烈(じすゐせいもうれつ)ににして容 易に当(あた)るべからず去りとて躊躇(ちうちよ)すべきにあらざれば警官等(けいくわんら)は消 防夫を指揮(しき)して被害者救助(ひがいしやきうご)に着手し鋭意(江つい)力を盡し兎角するうち 【下段】 警官市吏員等(けいくわんしりゐんとう)も急を聞いて馳(は)せ集まり尚ほ水上警察署(すゐぜうけいさつしよ)よりボー ト 一 艘(そう)と和船一隻を出して死体(したい)の探見(たんけん)に従事せしめつゝありし に夜は何時(いつ)しか明け渡りて万事自由(ばんじゞゆう)を得るに至りしかば消防夫(せうばうふ) 其他の人夫を督して土俵(どへう)を作らしめ之を以て切に堰止(せきど)めに力め たり又赤十字兵庫支部(またせきじうじへうごしび)よりも医師(ゐし)及び看護婦を出だし福原町(ふくはらてう)金 比羅神社を事務所(じむしよ)とし各員玆(かくゐんこゝ)に詰切りて負傷者(ふしやうしや)の手当うを為し 尚ほ湊川尋常小学校 其他(そのた)に於て焚出米(たきだしまい)をなし汎く窮民(きうみん)を賑恤し 其奔走(そのほんそう)尽力の様 中々目(なか〳〵めざ)覚しくも亦勇まし 古湊通りの惨状(さんぜう)  同町は貧民(ひんみん)の巣窟として有名(いうめい)なる所、平素(へいそ) すら飢渇(きかつ)に迫り糊口に窮(きう)するもの多きことなるに此出水被害(このしゆつすゐひがい)に 逢ひ家を失ひ産(さん)を失ひ去らでも哀(かな)しき境界(けうかい)は一 層(そう)無惨の有様と なり幸に其筋(そのすぢ)の焚出米を受けて僅に飢渇(きかつ)を凌ぎつゝあれども今(こん) 後(ご)を如何にせんとの嘆声(たんせい)は遠近各地に聞ゆるは書くさへ涙の種 のみなり 福原町(ふくはらてう)の惨状(さんぜう)  同地(どうち)は花街にして貸席料理店等(かしせきれうりてんとう)非常に多く大 層高樓軒を並ぶる所たり然(しか)るに八月卅日 夜(よ)は非常(ひぜう)の暴風雨(ばうふうゝ)にて 客足遠(きやくあしとほ)きを慮かり大通りの貸席等(かしせきとう)は多くは宵(よひ)仕舞とし行燈(あんどん)を収 め戸を鎖(とざ)して餘談(よだん)に時を移せる折柄(をりから)何時の程にか水は早や床下(ゆかした) に入込み居りて敷(し)き並べたる青畳(あをたゝみ)はフワ〳〵と浮始(うきはじめ)たり是ぞ堤(てい) 防決壊(ばうけつくわい)一転瞬の出来事ならども斯(かゝ)るべしとは思ひ設(まう)かざることと て一 同(どう)大に驚き逃げ惑ふほどもなく水勢益々激(すゐせいますはげ)しく漸次 床上(せう〴〵)に 及び階下(かいか)の器物(きぶつ)は既に流動(りうどう)し始めたるにぞ今は家財(かざい)の取片付け をなす暇なく孰(いづ)れも階上に逃(に)げ上り僅に命(いのち)を拾ひたれども此等(これら) 貸席(かしせき)の習ひとして衣服其他貴重(いふくそのたきてう)の品々は皆階下の室(しつ)に在ること なれば其多(そのおほ)くは空しく流失し若くは泥水に塗(まみ)れなどして其損害(そのそんがい) 少なからず夫は兎(と)も角(か)く左しも名だゝる大厦高楼(たいがこうらう)も概ね軒傾む き柱 歪(ゆが)み或は床下(ゆかした)を洗ひ去られ一として満足(まんぞく)なるはなく就中 澤(さわ)