翻刻
唐にして腹ふくれもへつそりと腹をへら
して走廻り和泉屋山城やも打つぶし
大黒屋彦兵衛宅にふみ込て是も散々に打破り
俵も運命小袋も皆取出しさきさばき
打手の小槌を懸矢にしてひしやり〳〵と
うち潰しにつこと笑大黒もふつてう面(ヅラ)
にて迯まはる大黒舞を味噌くそにてん
〳〵舞おぞさせにける次に百姓藤兵衛宅
是も同く打潰し藤兵衛兄弟は釼術たんれん
のものなれば切散さんと思ひて御支配へ
窺ひけれは百姓へ手指事堅無用と制
せられ無甚なからもこらへしと也すでに
さきに立|漣(サゝナミ)立て吾先に志賀の都を
あらさんと天地の御宇の小角より心は
ぜんき五|器(キ)一道のまくわんとあわれゆく
志賀の里にはこれを聞神津半右衛門
現代語訳
腹を空かせて腹がぺこぺこになり、痩せこけて走り回り、和泉屋や山城屋も打ち壊し、大黒屋彦兵衛の家に踏み込んでこれも散々に打ち破り、俵も運命尽きて小袋もみな取り出してずたずたに切り裂き、打ち手の小槌を投げ矢にしてひしゃりひしゃりと打ち潰し、にっこと笑う大黒様も仏頂面で逃げ回る。大黒舞を味噌糞にして、でんでん舞を踊らせたのである。次に百姓藤兵衛の家も同じく打ち壊した。
藤兵衛兄弟は剣術を鍛錬した者なので切って散らそうと思って、御支配所へお伺いを立てたところ、百姓に手を出すことは固く無用であると制止され、無念であったがこらえたということである。
すでに先頭に立って波風を立て、我先に志賀の都を荒らそうと、天地の御宇の小角より心は前鬼後鬼五器一道の魔観となって、哀れにも行く志賀の里では、これを聞いた神津半右衛門が