翻刻
毛もいやたつ計なり徐くかた端なる
中程に下りて左右を見渡せは倒れたる
家よりは死骸を抱ひいで怪我人を背負
家財取出し運もあり大なる潰れ家は
なか〳〵に堀出す間もあらすして泣
叫声聞ながらもはや炎たる火をかむり
黒雲の如き烟りうづを巻て取かすみ
修羅とうくわつの苦患といへ地獄の【とうくわつ等活地獄。八大地獄の第一】
呵責といふとても是にはよもやまさる
ましと見聞も中〳〵恐しくふるひ〳〵
て漸〳〵に淀ケ橋より細道つたひて
はせ越へ出て夫よりかんねいかはの端を
歩行て?裏田町なる畔を踏み普済寺脇道に
至りてみれは是なる客殿をはしめとし軒並
揃うて倒れてあり驚怖しなから漸〳〵に
権堂たんほにいたりて見れは野宿のあり
さま家財取出し囲となし残りし家
財こはれ戸や破れ障子を持運ひ畳よ桶よ
戸棚よと老若男女入交り上よ下へと散乱し
火災を遁るゝ辛苦の騒動驚き歎く計り也