翻刻
去程に幸一か家より迎ひの者の来り
けれは世俗の諺に地獄にて仏に逢たる
心地して様子を尋ね問けれはいまた
権堂へは火はかゝらすすこしもはやく
帰り給ひくはしきほとは道すからに語り
まをすへしと進めにやうやくちからを
得さらばとて起上りても夜前より一命
危き煩ひに身体更に自由ならすこゝろは
急けとも足腰たゝす肩にすがり腰をいたか
れ神輿あるかたを三礼し打連立て
漸〳〵に我宿さして行んとすれとも
市街は一円火の中ゆゑ本城より南の
細道通りけるに此辺はまた恐しく地
われて高低の夥敷裂たる端は三尺四尺
長短何れとも二十間三十間よりすへなきは
なく大なるは壱丁有余是を見るより尚
更に所謂薄氷を踏か如くいまた地震
は数をもしれす幾度となく鳴動すれは
若哉此うへ大にして地割れ土中に
埋れせばいかにやせんと安からす身の