翻刻
【右丁】
舜(しゆん)《振り仮名:命_二禹_一治_二洪水_一|うにみことのりしてこうすいをおさめ給ふ》事(こと)
大舜(たいしゆん)位(くらい)に即(つき)給(たまひ)て四凶(しけう)三 苗(めう)とて悪逆(あくぎやく)の諸侯(しよこう)を従(したが)へ御代(みよ)治(おさまり)
群臣(ぐんしん)慶賀(よろこびをそう)すといへども但(たゞ)洪水(こうずい)災(わざはひ)をなして民(たみ)甚(はなはだ)くるしめり
舜(しゆん)これを禹公(うこう)に命(みことのり)して治(おさめ)救(すく)はしむ禹(う)勅(ちよく)を奉(うけたまは)り天に祷(いの)り
功(こう)を成就(じやうじゆ)せしめ給へと誓願(せいぐわん)ありければ其夜(そのよ)夢(ゆめ)に一男子(ひとりのおのこ)赤(あか)き繍(ぬいもの)
の衣裳(いしやう)を穿(き)手(て)に一 冊(さつ)の書(しよ)を持(もち)我(われ)は天の使者(ししや)なり天帝(てんてい)汝(なんぢ)の
一心(いつしん)に天下の為(ため)に水(みづ)を治(おさめ)んとするを喜(よみん)じ給ふゆへ某(それがし)を以(もつ)て汝(なんぢ)に
授(さづく)るに水を治(おさむ)る経(きやう)を賜(たま)ふ是に遵(したがつ)て治(おさ)めよと言(いひ)訖(おわつ)て雲(くも)に
入る禹公(うこう)夢(ゆめ)覚(さめ)て見給へば一冊(いつさつ)の経(きやう)あり取て是を視(み)大(おゝ)きに
喜(よろこん)で次日(あけのひ)人歩(にんぶ)に分付(いひつけ)て備(そなへ)を立(たて)耟(すき)【ママ】鍬(くわ)を用(もたせ)て行(ゆく)まづ九州(こゝのくに)の道(みち)
を通(つう)じ九沢(こゝのつのさは)を障(さゝ)へ九 山(やま)を度(ひらき)て既(すで)に江北(きたぐに)の諸水(しよすい)を治(おさ)め淮水(わいすい)と
云所を渡(わた)り給に其所尤 険(けわしく)して支巫期(しふき)と云 怪物(いきもの)有その形(かたち)
大木(たいぼく)の如(ごとく)にて色(いろ)黒(くろ)く長(なが)さ十 余丈(よぢやう)ばかりなる恐(おそろ)しき物 浮(うかみ)出て涛(なみ)
【左丁】
を漲(みなぎ)らし岸(きし)を崩(くず)し民家(みんか)をやぶる禹(う)手下(てした)に下知(げぢ)しこれを
射殺(いころ)す又一の獣(けたもの)有て水上(みづのうへ)を駆(かけ)る事 鳥(とり)の飛(とぶ)が如(ごと)く其形(そのかたち)
八の首(かしら)八の足(あし)耳(みゝ)目(め)倶(とも)になし又 箭(や)を備(そろ)へて射(い)るといへ共 一(ひとつ)も
肉(にく)に着(たつ)ことなく皆(みな)筈(はづ)をかへしければ禹(う)大に嘆(なげ)き抱(うれへ)悶(もだへ)給ふ是夜(このよ)
夢(ゆめ)に又 使者(ししや)来(きた)り告(つげ)て曰(いわく)此(これ)は天呉(てんご)と云(いふ)物なり食(しよく)せず死(し)せず
千歳(ちとせ)にして斃(し)す我(われ)公(きみ)の
為(ため)にこれを治(おさ)むべしと
忽(たちまち)雲(くも)開(ひら)け波(なみ)息(やむ)是(これ)誠(まことの)
心の致(いたす)す【衍】所なり遂(つい)に
【挿絵】 江(えの)流(ながれ)治(おさま)り平(たいら)かになれば
諸人(しよにん)安土(あんど)を得(ゑ)てこれに
居(い)百姓(はくせい)地(ち)を得(ゑ)て五穀(ごこく)を
種(うへ)民(たみ)以 食(しよく)を足(たらはす)ことを得(ゑ)たり