翻刻
【右丁】
夏(かの)禹王(うわう)江を過(わた)るに黄竜(わうりやう)舟(ふね)を負(おふ)事
大禹(たいう)は黄帝(くわうてい)の玄孫(つるのまご)なり天性(うまれつき)敏給(さとく)克勤(よくつとめ)て其徳(そのとく)違(たが)はず
其仁(そのいつくしみ)親(したしむ)べく其 言(ことば)信(まことに)すべし洪水(こうすい)を治(おさ)めて大に功(こう)あり故(かるがゆへ)に
舜(しゆん)の禅(ゆつり)を受(うけ)て帝位(ていゐ)に即(つ)き天下を分(わか)つて九別(こゝのつ)とし
田土(でんど)の高下(かうげ)を差(わか)ち貢税(みつき)の式度(のり)を定(さため)井田(せいてん)とて田畠(てんばた)を井(い)
の字(じ)の如(ごと)く分(わか)ち其(その)中(まんなか)一つを年貢(ねんぐ)に奉(たてまつ)り廻(めぐ)り八つを農民(のうみん)
の徳用(とくよう)にすべしと定(さだめ)たまふ万民(ばんみん)観(よろこび)【歓の誤ヵ】楽(たのしみ)て天下大に治る或時(あるとき)
禹王(うわう)自(みづから)四方(よも)に巡狩(くにめぐり)し給ふ道にて江(ゑ)を渡(わた)り給ふに忽(たちまち)波(なみ)
起(たつ)て黄竜(きいろのりやう)船(ふね)を犯(おか)す舟中(ふねのうち)の人 惧(おそれ)て大に哭(なく)禹王(うわう)舟の覆(かへ)
らんとするを見て大に嘆(なげ)き天を仰(あをい)でぼ某(それかし)命(めい)を天(てん)に受(うけ)
力(ちから)を竭(つく)して万民(ばんみん)を救(すく)ふ奈何(いかん)ぞ竜(りやう)に憂(うれふ)と言(のたまひ)て剣(つるぎ)を抜(ぬい)て
うち振(ふり)給へば竜(りやう)は其(その)威(ゐ)におそれ首(かしら)を俛(ふせ)尾(を)を低(たれ)て去(さる)
こゝに於(おい)て王の舟(ふね)恙(つゝか)なく岸(きし)に至(いた)る 古今註(ここんちう)には黒竜(こくりやう)と
あり又 朗詠集(らうゑいしう)にも此 詩(し)あり
【左丁 挿絵のみ】