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【右頁上段】
るナバへ松藩(まつはん)政中(せいちう)お騎初(のりぞ)めの折り騎馬印(きばじる)し等を立てかけて、当
時物見の松と称(せう)せしものも土際より難なく折れて追手(おほて)門前(もんぜん)に横
はれり、而して其の東隣(とうりん)なる藤並神社境内の被害は更らに甚(はなはだ)し
く、境内(けいだい)の樹木(じゅもく)大概(たいがい)折(を)れざるはなく僵れざるはなく、縦横(じうわう)参差(さんざ)
入り乱(みだ)れて、一木は一木を枕(まくら)とし、一樹は一|樹(じゆ)に依(よ)りかゝる、
神殿(じんでん)の東脇(ひがしわき)なる宝庫(はうこ)へ四本の大木(たいぼく)倒(たほ)れかゝりて尽(こと〴〵)く瓦(かはら)を碎(くだ)き
居るなどを見れば如何に風力(ふうりょく)の強かりしを想像(さうぞう)せしむるに足
る。
◎土佐神社の倒れ木 土佐郡一宮村土佐神社の馬場に植へられ
たる杉の大木は其の数百本にあまれるが、彼の風の為め大概倒
れ立たるもの僅かに十数本なりといふ。
◎陽貴山の樹木 土佐郡薊野村陽貴山の樹木(じゆもく)は、吹き折られ吹
き千切られて一木を留(とゞ)めず、全山(ぜんざん)赭(あかは)だかとなれるは無残なりと
ぞ。
●県下の風害に就て
●高等官被害視察 谷河県知事は被害地視察として、三宮属を
随へ、吾川(あがは)高岡(たかをか)両郡(りやうぐん)へ、水本警部長は、東部へ、河島|参事官(さんじかん)は
幡多郡(はたぐん)へ、孰れも出張せりと。
●警部巡査の非常召集 警部長(けいぶちやう)は非直警部巡査の非常(ひじやう)召集(せうしふ)をな
し取敢ず市内(しない)近傍(きんばう)被害(ひがい)の取調をなさしめ、警務課佐井警部は、
山田後免付近へ、峯村|警部(けいぶ)は須崎(すざき)高岡(たかをか)付近(ふきん)へ、西本警部は赤岡
安芸付近へ、横田警部は中村へ、井上警部は伊野佐川(いのさか)付近(ふきん)へ、
孰れも被害地(ひがいち)取調(とりしらべ)の為め出張したり。
●高知警察署の繁忙 高知(かうち)警察署(けいさつしょ)は、廿八日午後七時廿分、非
番巡査を召集(せいしふ)し、各巡査の参着(さんちやく)せしものを漸次派遣し、救護警
戒を為しめたり。此(この)場合(ばあひ)県庁前鷹匠町金子橋弘岡町等|倒壊(たうくわい)家屋(かをく)
の為(ため)圧敷(あつしき)されたるものありて、救護を申請(しんせい)するもの続々たるに
【右頁下段】
接(せつ)し或は武田病院内の病室に失火ありと報するもあり、又た潮
江村にも失火ありとの続報(ぞくほう)に接し、一時は非常に繁忙(はんばう)なりしも
迅速(じんそく)巡査(じゅんさ)を派遣せしめ、之れが任務(にんむ)に従事せしめたり、一日して
暴風(ぼうふう)静止後(せいしご)は、引き続ひて被害の調査(てうさ)は取掛りたる由。
●郵便局の繁忙 今回の暴風雨(ぼうふうゝ)に付き各地に発する見舞(みまひ)、被害
の問合(とひあわ)せ等の為め郵便物(いうびんぶつ)の増加せし事は非常なるものにて、高
知郵便局の繁忙(はんばう)は彼の正月三ヶ日の繁忙(はんばう)に譲らず、随て同局に
ては臨時に定員外数名の集配人(しうはいにん)を集ひ入れたり、尚ほ記す各県
県に通(つう)ずる電報は、此の程(ほど)漸(やうや)く通じ、郵便局は何れの線路(せんろ)も通
じ居れり。
●奸商取締に関する訓示 今回の大惨害(だいざんがい)に就ては、利に敏き奸
商共に同胞(どうほう)の難義を余所に見て、種々(しゅ〴〵)奸計(かんけい)を運らし、暴利を博
せんとし、中にも材木商(ざいもくしやう)瓦商(かわらしやう)の如きは、此機を当込み、其価を
二倍三倍或は甚(はなは)たしきは四五倍にして、不当(ふたう)の利益(りえき)を貪らんと
するものより、是等(これら)奸商輩(かんしやうはい)を取締る為め、県知事よりは其部下
に対(たい)しそれ〳〵訓示を発し、又|警察署長(けいさつしょちやう)よりも、各警察署へ
内訓(ないくん)を発したりといふ。
●風害余聞
▲高知堀詰両座の被害 本町(ほんまち)堀詰座(ほりつめざ)は、屋根の枌(そぎ)を吹きまくら
れて、坊主屋根となり、中島町の高知座(かうちざ)は、大風(たいふう)の一吹きべ
り〳〵〳〵とグサ仆(たを)れとなり、屋根(やね)は其侭(そのまゝ)舞台の上に落ちかゝ
りて、八朔(はつさく)芝居に用ゆる筈なる襖(ふすま)建具等(たてぐとう)を張り替へ居たる雇男
の某々三人其下に伏せられて、声(こえ)の限(かぎ)り助を呼ぶ内同座の内に
居る市川幸七が聞(き)きつけ、三四人の若者と共(とも)に屋根の枌(そぎ)を破り
て穴を明け三人を引(ひ)き出したるに、三人が三人とも少しの怪我(けが)
もなし居らざりしは、誠(まこと)に幸ひの事といふべし。
▲臨時賞与七十円 高知(かうち)病院(びやうゐん)にては、彼の夜病室の一棟|覚束(おぼつか)な
【左頁上段】
く思はるゝにぞ、宿直員(しゅくちょくゐん)は誰彼れの差別なく必死(ひつし)となりて大
に働(はた)らき、患者(くわんじゃ)看護人(かんごにん)をば一人も残らず、他の堅固の室に移(うつ)ら
しめ、先づ安心(あんしん)と思ふ折から、忽ち来る一|道(だう)の烈風(れつぷう)に、件の一棟
はめり〳〵と倒れたり、左れど右の如く移居(いきょ)の後なりし以て一
人の負傷者(ふしやうしや)だもある事なく、一同無事なりけるは、全(まつた)く宿直員
の手柄(てがら)なりとて院主より宿直者一同へ臨時(りんじ)賞与(しやうよ)金(きん)七十円を与へ
たりと聞けり。
◎警察署受付の困難 東西(とうざい)各郡(かくぐん)より当市に来(きた)り居れる学生其他
の人々(ひと〴〵)市中(しちう)の被害を見て驚嘆して郷里(きやうり)のさまを想像し、警察部
へ問(と)ひに来るもの引きも切(き)れず、夫れが為め受付は事務を妨け
られて大困難(おほこまり)を極めたりと左(さ)もありなん。
◎高知監獄 高知監獄は獄舎(ごくしゃ)には別に被害もなけれども桜馬場(さくらばゞ)
なる東西六間南北二町にあまれる米搗(こめつき)工場(こうじやう)全倒(ぜんたう)せり。
◎在監人無事 同署にては、本支署共|監房(かんばう)は倒壊(たうくわい)せず、従て在
監者には、一名の死傷(ししやう)もあらざりし。
◎農学校の被害 県|農学校(のうがくかう)にては、収納小屋一棟肥料小屋一棟
新築中の倉庫とも、強風(けうふう)の為め吹き飛ばされて全倒となれり。
◎大林区署の被害 西弘小路(にしひろこうぢ)なる大林区署内林野整理局高知支
局の一棟も、亦(また)潰倒(くわいたう)の惨状を呈したり。
◎各神社の被害 を挙(あ)ぐれば先づ第一に潮江の天満宮は、大鳥(おほとり)
居(ゐ)通夜堂(つやだう)杉の大木数本仆れ、追手筋(おほてすぢ)藤並宮は、松杉其他の大木
二十四本仆れ、縦横(じうわう)交叉(こうさ)して往来を止め、社殿へ近よる事出来
ず、散田(さんでん)なる山内神社は、塀(へい)植木(うゑき)其他(そのた)大破(たいは)し、社殿は半こはれ
となれり、公園内熊野神社は周囲(しうゐ)に生ひ立つ杉の大木大半は根
こぎとなり、又た幹(みき)の中央より折れて、旧(きう)西門跡(せいもんあと)より社殿の屋
根を見透(みす)かす様になりたり、石立(いしたて)八幡宮(はちまんぐう)は、古来有名の一本杉
仆れ、社殿(しゃでん)は半つぶれ、上町八幡宮も亦(また)半(はん)つぶれとなる、山田
【左頁下段】
町八幡宮は、拝殿(はいでん)の屋根を残らず取られて、只(たゞ)柱(はしら)のみ数本立ち
居り、洞島(ほらしま)神社(じんじゃ)も亦桜木仆れ、末社の淡島宮|転覆(てんぷく)し、枡形稲荷
宮細工町黒柱神社共に転覆(てんぷく)の惨状(ざんじやう)を見るに至れり。
◎竹林寺の被害 本県の名刹(めいさつ)たる五台山上の竹林寺は、暴風雨
の為め非常(ひじやう)の破損を蒙り、殿堂の倒壊(たうくわい)したるものありと云ふ。
◎鳥類多く死す 彼の暴風に梢(こずへ)に宿れる鳥類は忽ち塒(ねぐら)を襲(おそ)はれ
て、飛び度(ど)を失ひ、或は枝に打たれて死する者(もの)頗(すこぶ)る多く、藤並
宮にては、鴉(からす)の死せるもの二羽を見出(みいだ)し、石立八幡宮は、唐鳥
と鳶(とんび)の死骸あり、桜馬場(さくらばゝ)の柱某氏控への竹藪にては、雀(すゞめ)百五六
十羽を拾ひ、又近所の猫(ねこ)のくはへ来りしものも多くありたりと
か、其他処々の森官林等にては、諸鳥の死骸を見出すこと夥(おびただ)
しかりしといふ。
●罹災者の救護並に慰問
◎赤十字社員の出張 土佐郡(とさぐん)本川村(ほんかはむら)の惨報(ざんほう)に接し、赤十字よ
りは、支部幹事中野属|取敢(とりあ)へず、出張せり。
◎高知武揚協会 は今回の暴風雨(ぼうふうう)の為めに損害を被りし同会員
一体に対し、新聞紙上(しんぶんしじやう)にて見舞をなし、又当市内同会員の家宅
全倒又は、死傷者ある向に対しては、幹事(かんじ)今村練渡委員石橋友
衛の両氏出張して尽く訪問(はうもん)をなしたる趣なり。
◎石山高橋二氏の義挙 今回風災の為(た)め瓦の大|需用(じゅえう)あるを当て
込み、瓦商(かわらしやう)の輩は暴利を博せんと企(くわだ)て一般人民を苦しむるを
以て当市(たうし)北街(きたまち)なる石川嘉蔵、高橋銀次の二氏は深く之を概(がい)し、
特に人を大阪に遣(つか)はして、大に瓦を買(か)ひ来らしめ定価を以て弘
く之を需用者(じゅようしゃ)に頒つ筈なりと、其(その)義侠真(ぎけふしん)に賞すべし。